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開けられたドアの前で息を飲んだ。
「、あ、の…やっぱり、」
俺にこのドアを通る勇気はない。その場で足踏みしていると、後からそっと肩に手を置かれた。
ちらりと後ろを見ると青葉が大丈夫だよ、とでも言いたそうに立っている。
やんわりと押されて、足が前に出た。
一歩踏み出した足は廊下と教室の境界線を跨ぐ。
久しぶりに入った教室は何も見えなかった。というより、前を見るのが怖くて自分の足元しか見てないためどんな感じなのかも分からなかった。
「みょうじくん、こっちです。」
教室に入ったはいいが立ち尽くす俺に席に案内してくれるのか、俺の先を行く青葉の後ろをついていく。
何が大丈夫なんだ、全然大丈夫じゃない。
俯いているけどさっきから視線が痛い。何でこんな地味な奴がここにいるんだって、そんな視線が刺さっているような気がする。
俺も何でだ、って思ってるよ。何でこんなとこにいるんだ、って。
「ここがみょうじくんの席ですよ。」
それから青葉は隣の席に座っている生徒に声をかけていた。
「なずなくん、今日から同じクラスのみょうじなまえくんです。」
「おう!誰なのかな〜って気になってたんら!俺は仁兎なずな!よろしくな?」
少し舌っ足らずな言葉で俺に歯を見せて笑ってきたのは俺よりも小さくてまるで可愛いという言葉が似合いそうな子だった。
「よ、よ、ろしく…」
喉が詰まって言葉が出なかったが、絞り出すように挨拶をした。まだ俯いたままで顔は上げられなかった。
純粋に透き通ったような眩しい笑顔が伸び放題の前髪の間から見える。俺にとっては毒でしかない悪意のない、綺麗な笑み。
ああ頭が痛くなってきた。
大体、なんだよここ。皆顔面偏差値高すぎるだろ。
あっち見ても、こっち見ても整ったやつばっかりだ。
アイドル、アイドル、アイドルアイドルアイドルアイドル。頭が痛くなるくらいにその言葉が頭の中を駆け巡る。
アイドルは嫌い。アイドルは嫌い。アイツのせいだ。だからアイドルは嫌い。嫌い。嫌い。
追い込まれるようにどんどんどんどん意識が急降下していく。
「…くん、みょうじくん!」
「っ…!」
ハッとして顔を上げると不安そうに俺をのぞき込む仁兎と青葉。
「ご、ごめん…。」
ボソリと答えて顔を見ないように目線を下に送った。早くここから逃げ出したい。息苦しい。
今すぐにでも叫び出したい衝動に駆られながら、スカスカの鞄を机の上に置いたところでいきなり上から声が降ってきた。
「おはようございますっ!これはこれは皆さんお揃いで♪転校生ですか?私は日々樹渉です!どうぞよろしく!!」
多分俺の顔は固まっていることだろう。
だってハトを飛び立たせながら、俺の頭の上にパラパラと紙吹雪が舞って、俺の頭1個上で話す美形で整いすぎた顔のソイツ。
真っ白な長い髪を揺らしながら、笑ってる。こっちを見てる。
「あ…転校生っていうか編入生っていうか…みょうじなまえくんです。」
「みょうじくん!どうぞよろしく!」
「ぅ…」
「おやおやぁ?どうしましたっ?♪」
「む、無理だ…」
「え、みょうじくん、大丈夫ですか?」
「無理…!!!」
耐えられなくなった俺は吐き捨てて踵を返し走り出した。
無理だ!!何だこの教室!!さっきから溜まりに溜まっていた不安や苛立ち、恐怖があの真っ白な頭のヤツによって爆発した。
何なんだここは!もう帰りたい!俺には無理だ!
すでにキャパオーバーでとにかく足を動かして教室から離れる。
後ろで俺の名前を呼ぶ声が聞こえるが無視した。
今更戻れるわけないだろ。
ハァハァと息が上がって苦しくなる。
広すぎる校舎も今はありがたい。もういいだろうと言うところで足を止めて呆然とした気持ちで歩く。
やってしまった。またやらかした。
俺は本当に馬鹿だ。でもこんなところ俺には無理だ。
自己嫌悪と言い訳の間に挟まれてついに足も止まった。
「消えたい…」
ボソリと呟いて長く続く廊下の先をぼんやりと見ていると、遠く向こうに今は絶対に見たくない姿が見えた。
「っ…!!!」
そこから本日2度目のかけっこがスタートした。