13

「離せよっ…!」

抗っても引っ張る朔間零の手は離れない。

「んーそんなに怖いなら、ほれ。こうしてやろう。」

ぴたりと止まって俺の後ろにきた朔間零は俺の目を両手で覆った。突然真っ暗になった視界に変な声が出た。

「ふがっ!」

「これ、そんなに瞬きするな。こしょばいぞい。」

こんな状態で歩け、と後ろから脇腹を突っかれて嫌々1歩踏み出した。

「あと5歩歩いたら、右」

言われた通りに歩くしかなくて、朔間零の手に目隠しされながら歩く。

こんなところ誰かに見られたら俺は恥ずか死ぬ。今でさえ恥ずかしさから暑くて頬も制服に包まれた体も汗ばんでるというのに。

いい加減早く解放してくれ、家に帰らせてくれ。

もう嫌だと駄々をこねる子供みたいな気持ちになっているとパッと手を離されて眩しい光に目を細めた。

やった、やっと解放される。光に慣れて視野を取り戻した。


「ぅ、わっ!」

「そんなに驚くことないじゃろう?」

俺がいたのは教室だった。飛び出して二度と戻らないと誓った場所にいた。

「あ、みょうじくんおかえりなさい。」

へらりと笑って青葉が俺を見た。

教室の中で突き刺さる視線。それは隣に朔間零がいることによって前とは比べ物にならなかった。

耐えられず、俺は自分の手で目を覆った。

さっき朔間零がしたように、見えなければ、見えなければいいんだ。

真っ暗になった視界で唇を噛み締めた。

「おや、零が連れてきたんですか?」

「まだこの場所に慣れていない子猫じゃからのう、優しくしてあげてくれんかえ?」

「ふふふ、零の頼みとならば!みょうじくん!私の胸にいつでも飛び込んできてください!優しく抱きしめてあげましょう!」

「渉ちん、それはちょっと違う気が…」

あああ、聞こえない。聞こえない。こいつらの会話なんて聞こえない!いっそのこと目だけでなく耳も塞ぎたい。

見えなくて、聞こえなければ俺は何も知ることがないんだ。それでいい。

なのに、俺の手はいとも簡単にどけられた。

また明るさを取り戻した視界には朔間零が大きく入り込んでいた。

後ろにはキラキラとした顔の整ったアイドルたち。
この構図に普通でいられるわけがない。

朔間零は俺の顔をのぞき込んだ。

「ほれ、お友達。たくさんおるじゃろう?」

「っ……!!…ち、近寄るな!」

ただでさえこの教室内が華やかすぎて困るというのに、それさえも上回る端正な顔が目の前にあることに挙動が不審になった。

長いまつ毛、整った眉、寸分の狂いもなく配置されたその顔はいつも長時間見ることはできなかった。
下を向いて必死で耐えた。




こんな挙動不審で態度が最悪で地味な俺なのに、朔間零が隣にいるだけで皆が話しかけてくれる。

俺の机の周りを囲って俺に色んなことを聞いてくれた。少しだけそれがくすぐったくて俺は下を向いて頑張って答えた。

それでも隣に朔間零がいたから話は途切れることはなかった。

憎いのに、嫌いなのに。

こんな俺を見捨てずに隣にいる朔間零を見て、ほんの少しだけ嬉しかった。