14
部屋の隅で体育座りをして顔を埋めている。
朔間零にここに連れてこられたのは1時間前。
軽音部の部室だと言われて俺を連れてきた後すぐに 「睡眠も大事じゃ」と言って馬鹿でかい棺桶の中に入っていった。
いきなり連れてこられて放置された俺はなす術もなくこうして今に至る。
帰りたい。というか帰っていいんだろ?もう放課後だろ。
それなのに、出不精の俺はここでも外に出るという面倒くさいことに嫌気がさしてうずくまるしかなった。
自分がアイドル科なんて未だに信じられない。有り得ないと頭を膝に押し付けていると部屋の扉が開く音がした。
予想しなかった音にビクリと体が震えた。
誰がが来たんだろう。
俺は部屋の隅で体育座り、朔間零は棺桶の中。
今誰かが来たところで俺は何もできない。せめて見つからないようにと縮こまった。
「おい、まだ誰もきてねーのかよ。」
低くイラついたような声が耳に入ってきた。声のイメージだけで何だか近寄り難くてこれ以上近づいてほしくないと思った。
「どーせ棺桶の中で寝てんだろ、って、うお!!」
きっと部屋の隅で固まっている俺を見てしまったんだろう。体育座りで顔を埋めている俺は見上げることはできなかった。
どうか、もうそのまま俺を無視してどこか行くなりしてほしい。
「…おい、あんた。」
もしかしなくても俺は話しかけられているのかもしれない。だが無視した。
「………。」
とにかく俺のことは放っておいてくれ。話しかけるな。
「…おい」
足音と共に近づいてくるのがわかった。ぎゅっと手を握りしめた。
来るな来るな来るな、そう思っていたのに、俺の肩に触れられた感触がした瞬間、バッと顔を上げてしまった。
俺に触れたやつもびっくりしたみたいで仰け反っていた。
「あんた…3年?何でここにいんだよ。」
短いグレーの髪。鋭いキリっとした目に優しい印象は受けないけれどやっぱり顔は整っている。こいつは何年だとネクタイを見たのに、指定のネクタイじゃなくて分からなかった。
「……朔間零に連れてこられた…。」
かなり俺のことを不審がっているみたいで俺は正直に伝えた。
「はぁ…?ったく、あの吸血鬼やろ〜」
そいつはズンズンと棺桶の方へ進んでいって、何をするかと思えば棺桶を蹴った。
「おいっ、起きろ!活動日だろーがっ!」
乱暴な口調とその行動にほんの少しだけ記憶にある朔間零と同じ感じがした。
「チッ、全然起きねーし。あんた、軽音部に入ったのか?」
「っ!入ってない!あいつに無理やり連れてこられただけだ…!」
「ふーん。…俺は大神晃牙だ。」
俺をじろりと見た後にそいつは大神晃牙と名乗った。未だに体育座りの俺を見下ろすその目が鋭い。
どうせこいつも地味で平凡なアイドル科にいるのが間違いのような俺を見下しているだろう。
「…みょうじ…。」
名前も言った方が良かったか?いや、でもこいつと話すのはもうこれっきりだろうし、まず関わりたくない。
誰とも接しないのが自分が傷つかない一番の方法なのだ。それが俺の経験でわかったこと。
「………帰る。」
刺さる視線にいたたまれなくてこの部屋から出るために立ち上がろうと床に手をついた。
「は?別にあんたがいても関係ねえよ。あいつが連れてきたんなら、何かしら用があるんだろうし。」
「……」
用なんてねえよ。俺は強制的に連行されただけだ。
何だか律儀に寝ている朔間零を待つなんて馬鹿らしく思えてきた。
帰ろう。帰って擦り切れた精神を休ませたい。
今度こそ帰ろうと思ったのに、ギギギと棺桶が開いて朔間零が出てきた。
「ん〜うるさいのう。せっかくいい寝心地だったのに…。」
「知るかよ。今日はUNDEADの活動日だろ!」
「んん〜…そうじゃったかの…?」
「つーか…あの人。どうすんだよ」
大神が俺を指していた。朔間零の視線が俺にうつる。人と視線を合わせるのは苦手だ。
そして朔間零を見るのはもっと苦手だ。
俺は床に視線を移した。
「わんこ、名前は聞いたかえ?」
「あぁ?まあ一応…」
「名前はみょうじなまえ。好きなものは我輩。」
「「は?」」
俺と大神晃牙の声が重なった。
「ば、ば、馬鹿言ってんじゃねーよ!!誰がお前なんか…!!!」
ガッと立ち上がって沸騰したように頬が熱くなった。
「あんな感じになるくらいには。」
にこりと笑っていう朔間零に大神晃牙は俺を引くような目で見てきた。
最悪だ。絶対変なやつに思われたに違いない。
「お前なんか好きじゃない!!むしろ大っ嫌いだ!!!」
人の前でこんなに大きな声を出したのはいつぶりだろうか。
足元のカバンを持って、扉へ向かった。
もう帰ってやる。
「また明日も来るんじゃよ〜」
ひらひらと手を振りながら、バイバイする朔間零を睨みつけた。
こんなやつに言われるがままにされて振りまわされる俺にも、朔間零にもムカついた。
来るもんか。
お前の顔なんか二度と見たくないんだ。
怪訝な顔でいる大神晃牙とにこりと笑う朔間零を尻目に部屋を出た。
もうここに来るのはこれっきりだからな…!