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アイドル科だからって本当にダンスの授業があるなんて知らなかった。

人前であんなのできるわけがないと保健室に駆け込むか、どこかに逃げるかしようかと思っていたけどなぜか俺は見学だけで良かった。

素人目線でもみんな普通にダンスがうまいし、俺は本当にアイドル科にいる意味がわからない。

何でこんなことになってんだと考えているとあっという間にお昼になった。

朝、大神が何か言ってたけど無視でいいだろうと机に突っ伏していたら廊下から騒がしい音が聞こえた。

「おい!引きこもり!」

「っ!!」

伏せていた顔を上げて廊下を見た。
大神がこちらを見て引きこもりと叫んでいる。

「あいつ…!!!」

くそ!皆いるのに何言ってんだ!!
ずんずんと廊下まで出て大神の前に立った。

「…ふざけんな。」

怒りで手がわなわなと震える。

「遅ぇからだろ。」

「…行かない。俺は行かない。」

「行く。」

「行かない。」

朝のやり取りと同じ結果、俺は大神に引きずられて軽音部の部室に来ていた。

「おお、遅かったのう」

「……。」

今日初めてみる朔間零。
今起きましたと言わんばかりに腕を上に伸ばして、体をほぐしていた。

授業に全く出る気がないのか…?何しに学校に来てんだよなんて思う前に、もっと別の苛つきがぶり返してきた。

「…無理やりつれてきて何か用でもあるのかよ…」

「ん?特にないけど一人で寂しいみょうじクンのために一緒にお昼を過ごそうかと思って呼んだのじゃ。」

あんたの顔見て飯なんか食いたくない。俺があんたのこと嫌いなの忘れたんだろうか?

世界中の誰よりも嫌いだ。傷つけられて、勝手に学校につれてこられて、挙句の果てには後輩を使うやつ。そうだ、こいつらのダシにされたのが心底気に食わない。そんなやつらと一緒に仲良く昼飯なんて食えるもんか。

…そんなこと言う勇気は持ち合わせてないから俺は床を睨みつけるしかない。

「……」

「拗ねておるのか?何か言いたそうじゃのう」

「……ダシに使いやがって…」

「ああ、朝のことかのう」

「…っ…」

何でもないように言う朔間零にますます自分が滑稽な存在を思えて今すぐこの場から消えてなくなりたくなった。

昼飯を頬張っている大神と何でもないような顔で見る朔間零。

先輩と後輩。ギター。教える。一緒に。
俺は蚊帳の外。

馬鹿らしい俺の存在。

こんなところに俺の居場所なんて最初からなくて、朔間零と関わる度に俺はもっともっと惨めになっていく。これ以上ないくらい貶められる。

睨みつけていた床から視線をずらして俺がとったのは逃げるという行動だった。

ドアから飛び出て廊下を走った。

また、またズタズタになった。
何でもないように言うけど、俺はその一言一言に翻弄され、落ちていく。

走って、駆け下りて、どこか一人のところに逃げたくなって、外に飛び出た。

足を動かしながらだんだん上がる息。アドレナリンが出て、わけも分からず泣きたくなるのはもう癖なのかもしれない。

どこか離れたところへ、遠く静かな離れたところへ行きたい。

適当に進んで当たりを見渡した。レンガ畳の道を囲むように生い茂る緑。

静かだった。

見る限り誰もいないみたいでやっと落ち着いて息をした。
空気を深く吸い込んでため息として吐き出す。

俺は何のためにこんなことをして、ここいるのかわからない。ますます自分の存在がなくなりそうなこんなところにいて何が得られるんだろうか。

近くにあったベンチに腰掛けて地面を見つめた。縮こまりたくなって、ベンチの上で体育座りをする。

塞ぎ込むように丸まってただただ時が経つのを待つ。
お腹はぐるぐるとなって空腹を訴えてくるけど、朝家を出るのをギリギリまで粘っていたため、弁当もないし、途中で買ってもいない。ここの購買がどこにあるのかも知らないし、ひもじい。

辛い。ただただ辛い。やっぱりここは俺には無理だ。適応能力皆無の俺にこんな環境無理だ。
そんなことを考えてはさらにどん底に沈んでいく。


「…ここにおったか。」

朔間零の声が頭上から降ってきた。
まさか、見つかるとは思ってなくて一瞬顔をあげそうになったけど会話をしたくなくて無視して塞ぎ込んだ。

無視していると、朔間零は隣に座った。

「ほれ、お昼ご飯はまだじゃろう?」

体育座りした俺のそばにカサリと何かものを置いたらしい。それでも俺は無視をした。

「…ダシにされたと言っておったが、それは違う。確かにわんこには教えてやると言ったが、おぬしに来て欲しかったのは紛れもない事実じゃよ。」

「…居場所がないと感じて、ここに逃げ込んだか。居場所は用意されるものじゃなくて自分が作るものじゃ。」

ビクリと肩かが震えて、胸がぎゅううと締め付けられた。苦しい。
分かってる。そんなこと分かってる。

至極真っ当なことを言われて抉られるように胸が痛んだ。自分で作れるものなら、自分が探せるものなら今頃こうしてここにわけもわからずいるわけないのに。それすら出来てない自分は本当に本当に非力だ。

「…と、言ったらまた同じ道を辿りそうじゃ。我輩の目の届くところに居場所はいくらでもある。そこに我が物顔で居座ったら良い。おぬしの居場所に誰も文句は言わない。」

「…決して1人ぼっちじゃないから安心せい。ここに我輩がおるじゃろう。」

何を根拠にそんなこと言ってるんだ、今ここに俺と朔間零の2人しかいなくても周りに人がいたら、俺はどうしたって孤立するんだ。

「学院に連れてきたのは我輩じゃからのう。一人歩きできるまでおててを引いてあげるから、ほれまずは食べるんじゃ」

優しい声色にそっと目を開けて、ちらりと横を盗み見たら足を組んで座った朔間零が俺を見ていた。

「ほれ、カツサンドじゃ。我輩のおすすめじゃよ。」

美味しそうな匂いのするそのカツサンドを俺の口元に近づけるように持ってきた。

「……。」

「まだ拗ねておるのか。あーん。」

容赦なくぐいぐいと口にカツサンドを押し付けられる。

「や、めっ」

「ほれほれ、餌じゃよ。歩くためにはまずは成長じゃ。食べないと育たぬ。はい、あーん」

美味しそうな匂いにやられて、いい加減うざったくて口を開けた。

食べさせられるような形でカツサンドをかじった。

「美味しいじゃろう?」

くすりと笑った朔間零は俺の頭を撫でた。

やめろ、と振り払いたかったのに何故か泣きそうでひたすら咀嚼することしかできなかった。