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それからというもの朔間零が言ったことは嘘ではなく、気づけば俺の近くに朔間零はいた。

俺が朔間零の近くにいるのか、朔間零が俺を近くにいさせているのかよく分からないけど、話題の転校生が来ても、Tricksterという2年生のユニットが来ても、その片隅に俺は居座された。

汗を流してこの学院の何かを変えようとしているアイドルたちを傍から見るのは胸がチリチリとやけるようだった。

目を逸らしたいと思ったのは事実だ。

ひたすら鏡の前で踊って歌って努力している姿を見ると、昔を思い出してしまいそうで苦虫を噛み潰した気分だった。

昔の…アイドルという存在に憧れと崇拝の意を持ち、心酔していた昔のことを。

彼らを見ていると嫌でもそんな過去の自分を思い出してきてしまい真っ直ぐに見ることができずにいた。

それでも逃げ出さずにいるのは、少し前に担任から言い渡されたことが関係していた。

なぜダンスや声楽の授業が見学でいいのか、それは普通科からの途中編入でアイドル科の授業を学ぶよりはプロデュースやマネジメントのことを学ぶ方が良いと学院が判断したからだと担任は言った。

プロデュース科は2年生の転校生しかいないけれど、アイドル科に在籍したままで俺はどちらを選択してもいいと言い渡された。

アイドル専攻かプロデュース専攻かを選べと言われて、俺は本当はどちらも願い下げだったけど仕方なく消去法でプロデュースを選んだ。

俺にアイドルは普通に考えて無理だからだ。

俺はプロデュースなんて1ミリも興味がなかったから即行帰って寝てやろうと思っていたのに、朔間零はどこからその情報を聞いたのか俺がプロデュース専攻を選んだことを知っていて、俺を転校生の女の子と合わせた。「まずは転校生の手伝いから初めてプロデュースやアイドルを知っていけば良いじゃろう」なんてことをほざいて。

俺の知らぬうちに朔間零に外堀を埋められて、プロデュースしません、知りません、さようなら、と言える状態ではなくなっていた。

こうしてやる気のある転校生やアイドルたちの傍らで胃酸が込み上げてきそうな毎日を送っていた。

「っ!ぃた…」

左手の人差し指を見た。ぷつりと真っ赤な血の玉が浮き出ている。

「…はぁ」

手縫い針と布を机の上に投げ出した。

「こんなの…出来るわけねえじゃん…」

やる気がなく動こうとしない俺に転校生の手伝いとして課せられた衣服の修繕。

断りたかったけど、一生懸命動いてる転校生を見てやらないとはその場で言えなかった。

誰とも接しないで黙ってできることなら、やってもいいかと自分を宥めて引き受けたのは間違いだったのかもしれない。

小学生の家庭科で習って以降1度も手縫い針なんて持ったこともない俺が簡単にできるものじゃなかった。

数回突き刺さった人差し指を見てまたため息をついた。

こんなんじゃノルマ達成なんて無理だろうなと諦めの目で布を見つめていると教室のドアが開いた。

みょうじ先輩、進んでますか?

そう言って転校生が失礼しますと一礼して教室に入ってきた。

俺以外誰もいないからそんな律儀にしなくてもいいのに。

「…ごめん。無理かも。」

現状からすると完成は無理だろう。先に謝っておこうと言うと転校生は俺の手元をじっと見た。

無理じゃありませんよ。ここ、こうやって縫うといいです。私もプロデュースとかまだ学び始めたばかりですけど、一緒に頑張りましょう。

「…俺は…別に…目的があってここにいるわけじゃないから…」

だから、俺に期待しないでほしい。何かできるだろうと求めないでほしい。やる気がなく根暗な俺はどうせ周りから訳ありで地味根暗の引きこもりとして認識されているんだろうし俺は蚊帳の外で見ているからそっとしておいてほしい。


…そうだとしても、前へ向かって頑張っている皆を見てると支えたくなりませんか?精一杯輝こうとしている皆を見ると、自分も頑張らなきゃって思えて…。だから、みょうじ先輩も…


ごめん。俺、アイドル嫌いなんだよ。
そう言えたらどんなに楽か。

澄み切った目で俺を見る転校生にそんなことは言えなかった。


みょうじ先輩もそう思いませんか?輝く皆の支えになれたら、それは私達にとっても嬉しくて誇らしいことですよね。


そう思えるのは転校生が綺麗な心を持っているから。卑屈精神しか持ち合わせていない俺にはどん底に突き落とされたアイドルというものにそんな思いは持てない。

それでも猫かぶりで嘘つきな俺はいい顔を被りたがる。

「……う、ん…」

か細く情けない声が口の端から漏れた。

賛同の返事と受け取ったのか転校生はふわりと笑い、同じ人がいてくれてよかったと言った。


つきり、と胸が軋む。

俺には触れることのできないその温度差に手を伸ばすことなんて到底無理なことだった。