18
「おい、引きこもり!」
ギターが鳴り止んだと同時に、大神が大きな声を発した。
椅子に座って粛々と針を布に通す俺はじろりと大神を睨む。
「…そう呼ぶのやめろって言ったよな…」
これでもかと言うほど、長い前髪の隙間から大神を睨みあげたのに何でもないような顔をしてギターを持った大神は俺を見下ろした。
「ジメジメしたような空気漂わせて辛気臭いんだよっ!!俺様がこんなにも掻き鳴らしてるのに隅っこでジメジメジメジメ!あぁ"ー!うぜぇ!キノコが生えるっつの!!」
「…俺だって好きでここにいるんじゃない…」
軽音部の部室で、それも隅っこで裁縫をしているのは何も俺が望んでやっていることじゃない。
1人になれる場所を探してふらついていたら今は棺桶の中で眠っている朔間零に連行されただけだ。
ギャンギャンとうるさい大神に俺はイラッとした。
「口調だけ似やがって…。ムカつく。」
「……お前って、あの吸血鬼ヤロ〜のこと昔から知ってんのかよ。」
「…お前じゃねーし。後輩のくせに…」
「ハッ!年上には見えねえだろ!ひょろくて細くて……、チッ、へぇへぇわかりましたよ、みょうじセンパイ。これで満足かっ」
俺が睨んでいるのが効いたのか大神はちゃんと先輩と呼んだ。嫌々だけど。
「…意味わかんねぇ。何で逆ギレ…」
「で、知ってんのかよ。」
「…………知らねえよ。」
「じゃあ何で普通科だったおま、…みょうじセンパイが吸血鬼ヤロ〜と知り合いなんだよ!」
「だから知り合いじゃねえし、そもそも知らないっつってんだろ。」
「でもあの吸血鬼ヤロ〜はそんな素振りじゃなかったぜ。」
知り合いだなんて笑える。あの時だって、ステージ上の朔間零と俺はただの観客Aであって、知りもしない何の接点もない人間だ。
話しかけたことすら覚えてないし、俺の存在は初めからアイツの中にいないんだ。
「……話したこともなかったし、俺とアイツは何の関係もない…人間だ…」
チクリ、とまた針が指に刺さった。でもその痛みより今は心臓のあたりがじわりと痛くて自分の言葉が心に刺さっていた。
「……ッ、辛気臭ぇ顔すんな!」
大神の声が少し焦ったように聞こえて俺はすぐにかぶりを振った。
「……。」
もうこの話題についてこれ以上話したくなくて俺は無言で縫い目を繋げた。
大神はそんな俺を見て動かなかったが、しばらくしてまたギターを掻き鳴らし始めた。
部屋に響くギターの音は嫌いではない。
昔、通いつめたライブハウスは熱気と歓声に包まれて音の振動が体に伝わってきて気持ちよかったのははるか遠い昔のことのように思えた。
そんなことを思い出していると手の動きが止まっていたみたいで気づいたら、全然進んでいなかった。
ハッとして再開しようとしたら、大神のギターもいつの間にか止んでいた。ちらりと見ると、大神はいつもの威勢はどこにいったのか、少し俯いている。
「なんか、思い出したくないこと思い出させて悪かったな…。」
辛気臭い顔すんなって俺に言ったくせに今度は自分がしてんじゃねえか。
何こいつ。変なところで勘のいいやつだ。
ふん、と鼻で笑ってやった。
「過去のことをいちいち気にしてられるかよ。」
言い切って俺はまた針を進めた。
強がってそう言って一番引きずっているのは俺なんだと分かっていても認めることはできなかった。