20
定期的に軽音部の部室にいれば、やって来る人間の顔が大体わかってきた。
特に同い年のこいつ…。
「あっ、今日もいるんだ根暗くん」
「………。」
羽風薫。明るい髪に整った顔、こいつもアイドル。
俺はこいつも嫌い。
以前、初対面でいきなり「陰気臭い、根暗、空気が重い」って言われたんだ。
黙ってるのは話す必要もないからだし、不貞腐れてるような顔なのは生まれつきだっつうの。自分がどれだけ顔がいいか知らねえけどズケズケと言ってくる羽風薫が嫌いだ。
俺と同じクラスの青葉が優しくて神に見えるぐらいだ。それぐらい羽風は悪魔だ。
「ねぇ、たんぽぽちゃん知らない?」
「はぁ…?」
たんぽぽ?意味わからない。お前の頭はお花畑かっつうの。
「転校生ちゃんのこと。」
「何そのネーミングセンス…」
さっきから根暗なんて言われてるんだ、反抗してぼそりと言ってやった。
聞こえなくてもいい、口に出すことですっきりするんだ。
「何か言った?」
にこにこ笑いながら聞いてくる羽風に別に、と答えた。
「聞こえてるんだけどさぁ?」
顔が整ったやつの目が笑ってない笑顔ってちょっと怖い。
少しだけ心臓が震えたけど、俺はできる限り堂々とした。
「………。」
言葉は返せなくて、だんまりだったけど。
「無視か〜いい度胸してるね♪…ていうか、根暗くん、なんでここにいるの?嫌いなものに囲まれて生活するって辛くない?」
「…は…?」
「俺たちのこと。嫌いでしょ。」
「……」
何言ってるんだこいつ。俺がいつお前に嫌いって言ったんだ。アイドルは嫌いだけど誰にも言ってない。
「分かるんだよね。その目で。俺、そういう視線にはよく気づくんだよね〜」
羽風がゆっくりと近づいてきた。
この部屋には今俺と羽風しかいない。
俺の目の前に立ち塞がった羽風が見下ろしてきた。
「ねぇ、どんな気分?嫌いなのにいるのはなんで?別に俺も周りに興味はないんだけどさ、あの朔間さんと関係してるっぽいから少し気になって。」
唐突に持ち出された話題に動悸がする。目が逸らせなかった。
羽風がゆっくりと屈んで座っている俺と目線を合わせた。
「嫌いなら、ここから去れば?」
心臓が刺されたみたいに痛かった。
それは、この場所からいなくなれ、お前の居場所はない、ということなんだろうか。
やっぱり俺をよく思わない人間はいるわけで引きこもりが、根暗がいるのは、ダメなんだ、と。
嫌いだ、確かにアイドルなんか嫌いだ。夢を振りまく?クソ喰らえだ。
嫌いだけど…青葉とか…仁兎とか優しい人もいるって知ったばかりで、でも俺にはこの場所は合っていなくて…。
混乱して唇が震えそうになった。羽風の言葉はごもっともだ。
だけど、その言葉がなぜか痛くて俺の目は潤った。
それから羽風の手が伸びてきて、何も言わず俺の前髪をかきあげた。
「や、めっ…」
「あれれ、泣いてんの…?」
前髪を上げられたことで俺の真っ赤になった目を見て羽風は目を丸くしていた。
仰け反って羽風の手から逃れたけど、俺は心を押しつぶされそうだった。
泣いてなんかない。落ちそうな目の汗を拭き取ったところで、部室のドアが空いた。
「おお〜薫くん、やる気じゃのう。一番乗りじゃ♪…と、なんじゃ喧嘩かえ?」
「えー、違う違う。ちょっと話してただけ。ね♪根暗くん」
キッと前髪の奥から羽風を睨んでやった。それなのに、なけなしの抵抗は見事にぽきりと折られた。
「………。」
自分の荷物を抱いて俺は外に出ようと立ち上がった。
羽風なんか嫌いだ、朔間零も嫌いだ!
同じ空間に嫌いなやつが2人もいる!
こんなとこ早く出てやる、と羽風の隣を横切ろうとした。
「前髪、切ったほうが似合うよ。」
「…っうるさい」
小さな捨て台詞を吐いて俺は部屋を出た。
廊下を早足で歩きながらさっきの言葉を思い出して苦しくなった。
『嫌いなら、ここから去れば?』
去ればいい、そんなのわかってる。でも朔間零がそれを許さないから俺はいるだけで…っ。
嫌いだっ、俺だってこんなとこ嫌いだ!あいつらも嫌いだ!皆嫌いだ!
世の中はいつだって自分の味方じゃないことを知った。