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羽風にアイドルが嫌いだろと言われてから、俺は軽音部に寄り付かなくなった。
行ったら絶対会うだろうし、そもそもあの場所からいなくなれと言われたんだ。
嫌いなら去れば?と。
なら、そうしよう。
俺はいなくなればいい。
だから俺は1人で色んなところに行った。ある日は外で、ベンチで、日陰の隅で、ある日は中で、空き教室で、図書室で、誰もいなさそうな階段で…
行かなくなれば朔間零から目を付けられるのは覚悟していた。
大神が無理やり連れていきそうになった時もあったけど、俺は必死で逃げて行かなかった。
そうしてしばらく見なくて、今日は屋上でちまちまと針と布を両手に手を動かしていた。
これが終わったら、楽譜と課題曲とかの整理もある。やることいっぱいあってめんどくさい。何で俺がアイドルのために動かなきゃならないんだよ、と唸ったけどそれが俺に与えられた最低限の課題だからやらないといけない。
何のためにこんなことしてんだろう…とふと考える時がある。
その場しのぎで学校生活を送るため?
好きでもないアイドルがわんさかいるこの校舎で与えられた課題をやるだけの日々…。
「こんなとこで何してんの〜」
聞こえた声に振り返った。屋上は一人だけかと思っていたのに羽風が来ていた。
会いたくない奴に話しかけられて俺は前髪の下で目を細めた。
「…関係ないだろ…」
「最近見ないと思ったら、こんなところでやってるわけ?」
「…お前が…いなくなれって言ったんだろ…」
「えっ?そんな事言ったっけ?」
はは、と笑う羽風が憎かった。言った本人は覚えてもいないんだ。アイツもそう。言葉の針で俺を突き刺しても、覚えていなくて無理やり振り回してきて…。
最低な奴らだ。
「いきなり、来なくなるからさぁ。俺がいじめたみたいになっちゃうじゃん?別に俺、間違ったこと言ってないよね?」
「…俺は…別に嫌い、なんて言ってないっ」
「じゃあ好きなんだ?」
「………」
「ふっ、わかりやすいよね〜」
へらりと笑う羽風に、俺は唇を噛んで耐えることしかできない。
「ねぇねぇ、何で嫌いなのか教えてよ。」
「……嫌だ。」
「誰にも言わないからさ〜。俺、秘密は絶対守る主義だし♪」
そんな飄々と軽そうな男が信用できるわけない。
「まぁ、あそこから去れば?って言ったのはひどかったとは思うけどさ、俺は根暗くんを気遣って言ったわけ。嫌いなのに無理しなくても〜って。」
「…っ、別に嫌いになりたくて嫌いになったんじゃない…っ。」
「じゃあ、前は好きだったってこと?」
好きだったか、と言われると好きだった…。心酔するほど。それは思い出したくない感情。
「…前は…嫌いではなかった…。」
「それが朔間さんと関係してるんだ。」
「…っ。大体、俺が嫌いなのが悪いって言うけど…っ、原因は全部あいつのせいだ…っ!」
「ふうん…。そんな人には見えないけどなぁ、朔間さん。だって根暗くんが来ないから心配してたよ?あの朔間さんが。どっかで車にでも轢かれてしまったのかのう、なんて言いながら。」
「…そんなのっ心配なんかしてねぇじゃねえかっ!」
「…でも朔間さんが気にかけてくれてるのは分かるでしょ?」
「………。」
気にかけるという言葉が合っているのか不思議だが、何かにつけて俺とコンタクトを取ろうとしているのは分かっている。
「何があったのか知らないけど、ここで過ごすならその喉に突っかかってるところ、取らないとやってけないよ。」
あーあ、こんなこと話す予定じゃなかったし、俺こんな助言するキャラじゃないのにな〜なんて言って羽風は肩を竦めた。
「とにかく前髪切ることから始めたら?みょうじクン。」
右側の口角だけ上げて笑った羽風に俺は目を見開いた。
…名前知ってたのかよ。
「ま、俺基本やる気ないし。いざこざは俺がいないとこでやってね。で、朔間さんから伝言。みょうじクンを見つけたら部室に来るように、って。」
じゃ、俺は伝えたから帰るね〜とひらひら手を降って羽風は屋上から出ていった。
「……誰が、行くもんか… 」
素直になれないのは誰よりも自分が自覚している。