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転校生からのお願いは断ったけど、一応はプロデュース専攻。俺にできることは手伝った。
と言っても校内アルバイトの代わりをやってあげたりと小さなことだ。
今は転校生の代わりに洗濯物を運んでいる。
抱え込んだ山盛りの洗濯物に前が見えなくてゆっくり歩いていた時だった。
「アルバイトかえ?」
「ひっ!!」
ぬっ、と洗濯物の山の上から顔が出てきて俺は心臓が止まりそうになった。
「な、なんだよ…」
出てきたのは朔間零で洗濯物で両手が塞がれている俺は逃げることも走ることもできない。
「転校生の嬢ちゃんからライブの話はあったかのう?」
「…聞いたけど…」
「断られたと聞いたんじゃが? 」
「…い、色々理由があるんだよ…っ」
「ふむ…。プロデュース専攻ならいい経験になるじゃろう?」
俺がプロデュース?出来るわけないだろ。そもそもアイドルたちに関わることさえ避けようとしているのにそんなこと…できっこない。
「……とにかく、無理なものは無理だから断ったんだよ!その代わりこうやって…手伝いしてるんだからいいだろ…」
俯いて必死に喋った俺を見て、朔間零は肩を竦めた。
呆れられたっていい、俺は自分が傷つかなければそれでいい。もう馬鹿な判断はしないように気をつけるんだ。アイドルなんかに関わったら自分が痛い目を見るだけだと、ようく知っている。目の前にいる朔間零のおかげで。
「…まあ事情があるなら仕方ないのう。」
「そういうことだから…。」
ふい、と朔間零を避けるように横切った。
転校生の目が、朔間零の目が痛いほど俺を突き刺してくるんだ。理由を付けて逃げる俺を責めているのか、分からないけど俺はもう関わらないと決めたんだ。
…痛い目を見るのはもう二度とごめんだ。
洗濯物を運び終えて後は帰るだけになり俺は自分の荷物を持って昇降口に向かった。
下駄箱から靴を取り出してそっと地面に置く。
やっと帰れる。未だに慣れないこのアイドル科の校舎から出る時は肩の荷が降りたように少しだけ軽くなる。
上履きから履き替えようと足を上げた時、俺の視界の隅に大神が見えた。近寄ってきて腕を組んで仁王立ちしている。
「なんだよ帰んのか?転校生の手伝いしてるんならレッスンも手伝いくらい出来るだろ。」
開口早々、偉そうに上から目線の大神にイラッとして見上げた。地面と廊下の僅かな差が俺と大神の身長差を大きくした。
大神は年下のくせに生意気だ。
「…お前が見てないところで手伝ってるんだよ。」
「つーか、ライブ来ねぇのか?」
「…行かない。」
「俺様のギターが聞けるっつうのに来ねぇなんて有り得ねーだろ。」
「いつも聞いてるだろ…部室で。」
「あの練習してた曲を今度のライブで披露すんだよ。鍛え抜いた曲をステージでぶちかましてやるぜ!」
「……ふうん。」
「チッ!んだよ、その反応は!俺様がせっかく誘ってやったのに」
「…何、お前は俺に見に来てほしいわけ?」
「っばっ、ちげーよ!」
大神は食ってかかるように歯を見せた。分かりやすいな、こいつ。いつも暇さえあればギターを抱えて弾いていた大神を思い出した。
ライブ、楽しみなんだなというのが伝わってくる。
自信に満ちて恐れを知らない瞳が俺の目と合った。
生意気だけど、俺をライブに誘うなんて思わなくて少しだけ年下として可愛げがある奴だな、なんて心の端で思ってしまった。
ライブで全力を出すために練習しているのは知っている。それは嫌でも視界に入ってきていたから。
頑張れ。
その一言がつい、喉から出そうになって、咄嗟にぐっと唾を飲み込んだ。
「…っ、」
何を言おうとしたんだ俺は。
頑張れ、なんて自分が嫌いなアイドルを応援するようなこと…。嫌いなのに、応援しようとした自分を全否定したくなった。胸が気持ち悪い。真っ黒で歪んでる。
関わるな、応援なんて、するな。
「……っ俺は行けないから…じゃあ…」
大神の目も見ずに俺は昇降口から外に出た。
誘ってくれた大神に悪いことを言っただろうか。いや、これは正当防衛だ…もう傷つかないために…。
自分を守るために避けたのに、なぜか胸に小さな傷がついてじくじく痛んだ。