25

画面に表示されていたのは転校生の電話番号だった。

「……。」

何で、今、俺の電話にかけてるんだろう…。もうライブは始まったはずなのに。

何で…。

震える携帯をただ見つめて、唇を噛み締める。出たら…いけない気がしてただ静かになるのを待った。

数十秒が何分にも思えた。携帯は震えているのに電話に出ない罪悪感に時間が長く感じる。

一定の感覚で震える携帯がピタリと止まった。

…良かった。何の連絡だったか知らないけど…

それは束の間の安堵だった。

すぐにまた携帯が震え始めたからだ。

今度はずっと着信がかかっていて、止まる気配がない。

じわりと汗が出てきた。何で俺に…それしか頭にない。

ここで出て何を言われるのか全く想像がつかなくて携帯を持つだけだったけど、一向に止まない着信。

無視をする罪悪感に負けてついに通話を押してしまった。

「…もしもし…。」

みょうじ先輩!今どこにいますか?

「……なんで?」

実は…ライブに必要な衣装…置き忘れてしまって…!
もし校内にいるなら持ってきてくれませんか…っ?!

「…どこにあるか分からないし…転校生のほうが…」

お願いします!もう会場から離れられなくて…っ!

「……」

衣装を手にして、ライブ会場に入る…?想像しただけで倒れそうだ。あんな…熱気の中に入るなんて…。

「…ごめんけど…」

みょうじ先輩っ!本当に、お願いです!!

「………っ」

ここで断ったら皆困る…、それはわかる…。でも俺は…俺は自分が傷つきたくは…。

電話越しに聞こえる転校生の声は必死だった。
お願いです、と言われて無理、と断る勇気は俺になかった。心の中で何で俺が…と吐き出すことしかできない小心者だからだ。

「…わかった…。会場には…入れないから…外で渡してもいいなら……」

それでいい、と転校生が言ったから俺は足を動かした。自分が傷つくのは嫌だけど、自分が断ったせいでライブを壊すのはもっと嫌だ…。

校内を歩いて転校生の衣装を手にした。今から…あの熱気に包まれたところに…行くんだ。

足が怖がって感覚が鈍くなった。
ドクドクと心臓が高鳴る。大丈夫、大丈夫、中に入らず外で渡すだけだから…。

急いで校内を出てライブ会場に向かった。




「…はぁっ、」

手に持った衣装を掻き抱いて走る。
早く渡して帰りたい。

地面を蹴りながら転校生と待ち合わせた場所に着いた。

周りを見渡しても誰もいない。

「…どこに…」

キョロキョロと探しているとオレンジ色の頭が見えた。

「みょうじせんぱーいっ!こっちこっち!」

「……葵兄弟…?」

転校生の代わりだろうか、俺はライブ衣装を来た葵兄弟のどちらかに近づいた。

「…転校生は…?これ…」

「あっ、聞いてますよー!今は朔間先輩たちが歌ってるところなんで!アニキは転校生と中にいます!」

「そ、そう…これ渡しといて…じゃ…」

ゆうたの方だった。朔間先輩たちが歌っている。それにひくりと口が引きつった。早くこの場から立ち去ろうと葵ゆうたに衣装の入った袋を押し付けて帰ろうとした。

「待って!こっちこっち!」

「ちょ…っ、なんだよっ」

「せっかく来たんだし見ていきましょうよ!」

「はっ…?!いいって…!俺帰らないと…っ」

「ちょこ〜っとだけ!♪ほらほらぁっ」

くっ、こいつ力強すぎだろ…逃げようとする俺の手をちぎるんじゃないかってぐらい引っ張っていく。

駄目なんだって、これ以上その先に行ったら、駄目って…。

裏口から連れ込まれて、照明のついた廊下を引きずられた。

大きな重たいドアを葵ゆうたが開いて俺を押し込んだ途端、真っ暗だった。

「あの先、明るいでしょ?」

葵ゆうたが指さす先、まだここからでは遠いのにあれが何かわかる。…ステージだ。

葵ゆうたの手が俺の手を引いた。

「ほら、先輩。行こう。」