02
引きこもりの活動時間と言えば深夜だ。
朝は遅くまで寝て、昼頃から起きてゲームしたり本読んだり。親はそんな俺を見ても何も言わない。
ありがたいこった。こんな息子、悩みの種でしかないだろうに。そんなことを他人事のように考える俺は人間として終わってるのかもしれない。
ただ、唯一何か原因があって学校に行かないなら家で勉強しなさいと言われたため勉強だけはちゃんとやっている。俺もそこまでワルではない。
根は真面目なんだ。だからあんな奴にメンタル傷つけられたんだ。ああ、思い出したくもないことを思い出してしまった。早く頭の中からアイツを消し去りたい。
だから学校には行きたくない。皆、表向きの顔で裏では何思ってるか分らないし傷つきたくない。
自分がショックを受けるくらいなら、人と接しなきゃいいじゃん。簡単だろ?
そんな思考で現在に至る。
そして深夜の時間帯になったら、俺は外に出る。
しーんとした住宅街を歩いて近くのコンビニを目指す。
コンビニに着いたら、まずはマンガの立ち読み。それから美味しそうなものがないか物色する。
新発売らしい珈琲プリンがあったので今日はそれを買った。上に生クリームがちょこんと乗っていて美味しそうだったから。
ありがとうございましたーという声に押されてコンビニを出る。
ぶらぶらとコンビニ袋片手に歩きながら、足元を見ていると夜なのに影が出来ていて不思議だった。
暗いはずなのに何で影ができるんだろう。それにやけに明るいような…そう思って上を見上げた。
満月だった。
大きな丸い月がこれでもかというほどに煌々と輝いていて夜なのに眩しかった。
何だか嫌な奴を思い出しそうだったけど、月がくっきりと綺麗だったので月見をすることにした。
近くの公園に入ってベンチに腰を下ろす。
月をぽけーっと見上げながら珈琲プリンを取り出した。
生クリームが乗ったところをスプーンで掬って頬張りながら大きな月を見る。美味しい。
どうだ、学校に通っている生徒は今頃寝ている時間だろうし、こんな体験できないだろう。
ざまぁみろ。ヒッキーだからこそ俺は月だって珈琲プリンだって堪能してるんだ。
そんな卑屈な考えで見下して一人でニヤニヤした。多分、人から見られたら通報されるレベルでキモいかもしれない。でもいい。
俺に失うものなんてないからな。もうこんなクズみたいなヒッキーの状態になったことで全て失ってんだ。
珈琲プリンを食べ終わったあともぽけーっと見上げていた。吸い込まれそうなくらい大きく丸い月に目が離せない。
暗示をかけられているかのように。
そろそろ首が疲れてきたという時に、ふと近くに人の気配がした。
「ん〜、良い月じゃ♪」
いきなりの出現にかなり驚いて声をあげそうになった。誰なんだこいつはとまじまじと見るも、そいつは俺の前にいて月を見上げているため顔も見えない。
俺に気づいているのか知らないが、独り言だろう。こんな時間に出歩くとは普通じゃないだろう。自分が言えたことじゃないが。
「のう、お主もそう思わぬか?」
そう言って、目の前の男は月明かりを後ろに俺に振り向いた。
その顔を見た瞬間俺は固まった。息さえも止まった。
「お、お前…」
満月の光を遮って俺を見て立っている。
間違えるはずがない。少し髪が伸びたかもしれないが、こいつは…こいつは…
「さ、朔間零…」
喉から出た小さな小さな絞り声は闇の中に飲み込まれていった。