03

すぐさま俺は思考を巡らせた。

なんでこいつがここにいる?
俺が見ているのは本当にあの朔間零なのか?

嘘でも本当でもあいつの顔なんか見たくないのに。

俺の人生の中で最大の汚点を作った原因。

絶対に二度と、見たくも会いたくもないと思っていたのに。

すぐさまこの場から離れたい。なかったことにしたい。なまっている体を動かすために力を入れようとした。

「こんな深夜に月見かえ?」

関わりたくなかったのに。あろう事か話しかけてきやがった。

「…。」

「今宵の月は稀に見る輝き。動き出す輩も多いのう…」

何なんだこいつ。俺が知ってるアイツとは違う…?

そもそもアイツはこんな口調じゃなかったし、俺様何様みたいな男らしさがあったが、今目の前にいるこいつは変なじいさんみたいな口調だ。

もしかしたらただのそっくりさんかもしれない。

「…あんた…朔間零?」

「…ううん…すまんが我輩の記憶に見覚えは…」

腕組みをしたまま首をかしげて俺を見つめる朔間零は以前と変わってはいない。ただ口調が全く別人だ。

「本当に朔間零か?あの夢ノ咲学院の…」

「お主も夢ノ咲学院の生徒かえ?」

も、ってことは夢ノ咲学院の生徒なんだろう。それならますますこいつが朔間零だという可能性が高くなってきた。

もし目の前にいるこいつが本当に朔間零なら。
言いたいことは山ほどある。浴びせたい言葉は山ほどある。

「…質問に答えろよ。俺はお前を知っている…。前はそんな喋りじゃなかったはずだ。」

「前…。はて…?我輩もここしばらくこちらにいなかったからのう。人間変わることもあるのじゃよ。くっくっくっ。」

くつくつと笑った顔が俺の記憶を刺激した。確かにこの楽しそうな顔は見たことがある。アイツだ。間違いない。

「…何でここにいる。学校はどうした。」

「我輩の活動時間は夜闇の時間。校内にいる間は室内で日が暮れるのを棺桶の中で待つしかないんじゃ。」

きっと以前の俺なら朔間零という存在とこんなに会話できていることに対して歓喜して倒れるぐらい喜んでいただろう。だが今は違う。

俺はコイツに憎悪の念しか持っていない。
俺が引きこもっているというのにこいつは、のうのうと校内で自由に過ごしている!こんな馬鹿なことがあってたまるか!!

誰のせいで俺がこんなになってると思ってるんだ!!

「まあ…今宵は月を楽しむとしよう♪どうじゃ、お主も1つどうかえ?」

そう言って手を伸ばして差し出してきたのは袋に包まれたものだった。豆大福と書かれていて、甘い物だと分かる。

こいつは俺のことを知らない。会ったことも覚えてない。俺が話しかけたことだって頭の片隅にもないんだ。

俺はこんなに沸点が低い奴だっただろうか?いやこいつに限ってだと思う。

全ての原因であるこいつの豆大福を突き出している姿を見るとみるみると怒りが頭に湧いてきた。

「っ…!ふざけんな!」

豆大福が乗せられた手を俺の手が弾いた。そのまま豆大福は手から落ちて、地面をころころところがる。
ぐしゃっとした音を聞いて少し心臓が跳ね上がる。

「誰の…っ!誰のせいで俺がこんな…!!…好きで月見てんじゃねぇ…!好きでこんな時間に歩き回ってるんじゃねえ…!全部全部…!」

手を弾かれた朔間零は少し驚いた表情でこちらを見ている。今に怒るかと警戒している俺はすでに逃げられる体勢を入っている。

コンビニ袋を握りしめて立ちあがる。

「全部お前のせいだ…っ!!」

最後の方が少し声が震えて自分がとても興奮しているのが分かった。少し熱くなった目頭に気づかないふりをして地面を蹴り出した。

しばらく運動なんてものをしていない俺の体は走るほどに悲鳴をあげているがお構い無しに逃げるように足を動かした。

走りながら後ろを見て、追いかけてきていないか確認する。普通見ず知らずの人間にあんな言葉を浴びせられたら誰だって怒るだろう。

「はぁっ…っ、はぁっ…」

追いかけてこないことが分って、足を緩めながら自分の手を見つめた。人生で初めて人に怒鳴った。情けないことに手が震えてる。

相手からしてみれば理不尽だ?分かってる。そんなこと。

言ってしまった。口から出た言葉は戻らない。

「…言っちゃった…。」

口にしてみて初めて自分の愚かさがわかった。なんて最悪でダメな人間なんだろう俺は。もう嫌だ。最悪だ。アイツなんか見たくなかった。

「…いや、言ってやったんだ。俺は…。」

そう俺のやったことは正しいんだ。じゃないと俺は救われない。底辺の俺の正当防衛だったんだあれは。

そう思った自分が1番汚いと思った。