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突然話しかけられてビクつきながら振り向いた。声でわかってはいたけど大神が腰に手を当てて立っていた。

「……来ちゃ悪いかよ。」

「ふん、悪いなんて言ってね〜よ。それよりこの間のライブ。来ないとか言って一番前で見てただろ。」

「……っ」

思い出したくもないことを聞いてこないでほしい。反射的にステージ上で歌っていた大神が頭に浮かんでくる。忌々しい記憶。

「あれは…無理やり…連れて行かれて」

「どうよ、俺様たちのライブは」

ふふんと胸を張る大神に俺は視線を地面に落として何と言おうか迷った。
どうだったって?本音は見たくなかったよ。だってそのせいで俺はこんなにも精神をすり減らしてるんだ。

あんなライブ見たくなかった。家に帰って自分の部屋に引きこもって何にも見ずに、聞かずにいた方が俺は救われてたはずだ。

あんな熱狂したライブなんて…俺は…見たくなかった。

「……別に。よく見てないし…覚えてない…」

「はぁ?」

苦し紛れな俺の言い訳に大神は眉を潜めた。自分の口から出た言葉はステージ上で歌を届けていた大神を侮辱する言葉だとは頭で分かっていても俺は大神によかったよ、かっこよかったよなんて言えない。ますます自己嫌悪に陥りそうな状態でどうしようもなくなった俺は飼育小屋のウサギを眺めた。もう奥の方に行ってしまっていた。

「あんだけステージの真ん前で口開けて目を見開かれてそんな嘘信じるわけねーだろ。」

「……は?」

「ステージからって意外にお客様の顔がよく見えんだよ。前の方は特にな。だから、お前の顔もよく見えてたっつーの」

「…お、俺は」

「はっ、どの客よりも一番目輝かせて見てた人間が覚えてないって?」

「…っ」

顔に熱が集まった。俺はそんな顔してなかったはずだ…っ。ただ…目が話せなかっただけで…っ。

「で、感想聞いてやろ〜と思ったらまた休みだすしよ。吸血鬼ヤロ〜が俺様たちのライブにあてられたからしばらくは来んじゃろうて、って言うからよう。やっと聞いたらこれが答えかよ。」

ふん、と少し怒ったように腕組みをした大神に俺は え? と自分の耳を疑いたくなった。

「…誰が…ライブにあてられたって…?」

「…だから、お前が、俺様たちのライブに…」

「……アイツ………」

俺が、朔間零の、ライブに、あてられた、って……?
だから休んでるって……?

ぷるぷると内側から湧き上がる怒りに震えてしまいそうだった。アイツは、俺のことをどこまで上から目線で見たら気が済むんだ…!!

俺がお前のライブにあてられた…??
アイツの、朔間零の、昔のことと、今までのことと、今日の興味無さそうな視線と、全てが脳内に過ぎって何か言ってやらないと俺の気がおかしくなりそうだった。

「…………。」

踵を返して地面を蹴った。

「お、おい!どこ行くんだよ!」

「……っ、!」

後ろから聞こえてきた大神の声を無視して校舎に戻る道を走る。

言ってやる。アイツに言ってやる。この怒りを全部ぶつけてやる。今までの俺の怒りを、全部全部…。

昇降口に入って自分の靴を取り出す頃には息が切れていた。アドレナリンが脳みその中に増えているからか少し指先が震えて手から靴が滑り落ちた。

乱雑に履き替えて、すぐに階段を駆け上がる。キツくて汗がじわりと出はじめた。

目指すところは決まっている。

バタン!

大きな音を立ててドアを開けると軽音部の部室はしーんと静まり返っていた。

「はぁっ…、はぁっ…」

開いたままのドアを閉めて部屋の隅にある黒い箱に近づいていく。

足元にある棺桶を見下ろしてすっと腰を下ろした。
すぅ、と息を吸うと肺がひくひくと震えた。

「おいっ!いるんだろっ…!開けろよっ!」

丈夫そうな黒い箱、棺桶をドンドンと上から拳で叩いた。

「おいっ…!!」

ドンドンと何度か叩いた時、ギギギ…と棺桶が僅かに開いた。ハッとして手を離す。

「……っ!」

ゆっくりと蓋が開いて隙間から手が出てきた。それから蓋が完全に開いて眠たそうな朔間零が顔を見せた。

「…ふぁぁ…なんじゃ…?煩くて眠れんわい…。」

「……っお前…っよくも!」

「何をそんなに喚いておるんじゃ」

欠伸をしながら落ちそうな瞼を少しだけ持ち上げて俺を見る朔間零に俺の怒りは頂点に達した。

「……っ、誰が!…お前のライブにあてられたって…?!」

「…はて?」

「大神から聞いたぞ…っ!俺は別に、お前らのライブなんか見るつもり無かったし…っ!みても何にも感じてない…!あてられてなんかない!」

普段こんな大きな声を出すことがなくて肺がおっかなびっくりで震えている。喉もじくじくする。心臓はどくどくと脈打っている。

「…ああ、ライブのことかえ。ステージの目の前で目を見開いて口を半開きのまま微動だにしない奴がいたら気づくのも当然じゃろう。熱気に飲み込まれてこの世の終わりみたいな顔をしていたお主は我輩たちに魅せられていたと簡単に分かるわい。」

「……っ!俺はお前なんか見てないっ!視界にも入れてない!!」

「…視線をずっと感じたけどのう」

俺は自分の言葉が頭にガンガンと響くほど激昂していた。頬が手が体が熱を持っているみたいに熱い。

朔間零はどこまで俺を見下すんだ…!こいつはどこまで俺を潰せば気が済むんだ…!

「…っ!俺は…っ、お前なんか嫌いだ!」

自分の目に何かが溜まりはじめたのがわかった。視界の端から滲んでいくそれに俺は必死で瞬きした。

「……俺を見下して…っ、お前が何でもないと思ってることでも…俺はっ…!…っ青葉に俺のことそっとしておけなんて言って…!今日、お前は俺を見ても何も思わなかっただろう…っ!一瞬だけ見て…っ!」

「んん…昼のことかえ…?眠くてぼーっとしておったからのう…」

…っ!眠かったから…?だからああやって興味なさげな目で俺を一瞥したのか…っ?眠かったから…?じゃあ…昔のやつは周りがうるさかったからか…?お前の1言で俺は引きこもりになったのに…っお前の気分で俺はこんなにも人生振り回されたのか…っ?

「俺はお前が嫌いだっ…!そうやって…気分で人に接するような…っ」

お前なんか大嫌いだっ!!

勢い余って棺桶の縁に手をかけて身を乗り出した。上体を起こしたままの朔間零にずいと近づいて大嫌いだ、と吐き捨ててやろうと息を吸った。

目の前にあの朔間零の顔があって、随分と昔に魅せられて崇拝していた時のあの顔と変わらないままの姿が目の前にあって、思わず息が止まった。

まつ毛の一本一本が見えるほど近くて、真っ赤な目は俺を見下ろしていた。


「……っ!!」

どんな時もその真っ赤な目に見られるとドキリとした。昔、ライブで見た時も、話しかけて拒絶された時も、月夜の下で会った時も、こうして今目の前でじっくりと見た時も。

乗り出していた身を引っ込めて、距離を取った。

分からない。俺はお前が分からない。
憧れて、拒絶されて、引きこもったのに、また俺に話しかけてきて…。
俺はお前が嫌いなんだ。

だから、ステージ上のお前を見たって俺は…かっこいいなんて、魅せられてなんて………。

「…お前なんか……嫌いだ…」

俯いてぼそりと呟いたと同時に目から1滴、握りしめた手に落ちてきた。

悔しかった。
嫌いなのに、ステージに立つ朔間零を見てかっこいいと思った自分がいた。魅せられた自分がいた。ライブにあてられた自分がいた。認めたくなかったことを簡単に言われて悔しかった。

俺はお前のことが憎くて仕方ないのに、それを否定するかのような自分がいることが悔しくて堪らない。

アイドルなんて、嫌いだ。夢を見せたあとどん底に落とし込むこいつがいる限り俺はアイドルなんて嫌いだ。

それなのにステージ上でキラキラ輝いて歌を歌って踊って、汗を流して、笑って笑顔を見せるUNDEADが、朔間零が頭から離れない。

「…大嫌い…だ…」

弱々しい言葉を投げつけ脱力した体を持ち上げた俺はとぼとぼ歩いて部屋を出た。