「ひとり」
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最初から最後まで名前を間違い続けた「きょうの仲間」は、愛想のいい笑顔を振り撒いて人混みに消えた
元々同じ依頼をたまたま受けただけの関係なので、別れは必然なのだが
今日もまた「ひとり」になった。
ひとりで居るのはもう慣れた、なんて心のなかで自分に嘘をついてみたところで、時々無性に隣に誰かに居てほしくなる
「腹へった」
街の中央に位置した古びた大時計は14時を少し過ぎた辺りを指している
昼飯の時間はとうに、過ぎていた
「なんか美味そうな魔物でもわかないかな」
なんて。
フィンハーストは魔物の発生事態が少ないのは重々承知している
ここにいる間くらいまともな飯を食すのもいいかもしれない
そう思って開いてる店はないかと歩き出した途端
「魔物だ!オーヴァチュアに至急連絡してくれ!」
突然魔物の発生を知らせる声がした。
その声を聞いた住人達が口々に悲鳴をあげだす
こうなってしまっては昼飯など食べている場合ではない
凶悪な魔物の発生事態が珍しい土地ということもあり、住人達は「魔物が出た」というだけで毎回このような事態に陥る
南へ南へ、逃げる一般人
北へ北へ、駆ける冒険者
皆誰かの手を繋いだり、誰かの名を呼んだり
はぐれた子供が泣き出したり、それを迎えに来る親がいたり
その姿をぼんやり眺めているうちに、そこには誰もいなくなった
あぁ、また「ひとり」にされた。
無意識のうちに唇を少し噛んだ
そして何を思うでもなく、足は自然と北へ歩みを進めた
□■□
そこには、大勢の軍人がいた。
オーヴァチュアの派遣騎士団というやつだ。何回か見たことがある
そんな奴等の足元にはたんまりと魔物の死骸が積まれていた
「どうした坊主。母ちゃんとはぐれたか?」
突然背後からかけられた声に、慌てて振り返る。
そこには金髪を風に揺らす男が立っていた
「はぐれてない」
無性に、イライラした。
初対面の癖にいきなり「母」の話題で人の傷口に塩を塗ってきた、こいつに
此方の事情をなにひとつ知らないからこそ余計に性質が悪い
「じゃあ、なにしてんだ?こんなとこで」
「お前に関係ないだろ」
「ま、そうだな」
そう、お前なんかはどうでもいい
さっきから腹の虫がおさまらない
奴等の足元に転がる死骸たちを料理したくて仕方ない
「リュカルド!」
金髪の男はリュカルドという名前なのだろうか、同じ制服に身を包む男に名前を呼ばれて「今行きます」と返していた
「じゃあな、坊主」
今度は此方にひらひらと手を振り、そいつは去っていった
次第に、魔物が落とした金を奪いあっていた冒険者たちも散っていく
残されたのは、俺と魔物の死骸だけだった
「いただきます!」
殺めてから少し時間が経ったせいか、肉が少しかたくなっている
血液もだいぶ地面に吸われたようで、もう少し遅れれば消滅するところだった
それでも食えれば問題ないからと、得意の火の魔法で炙る
「うさぎの味だな」
魔物は家畜に比べると、だいぶえぐみのつよい肉が多いが食えないことはない
次々と胃のなかに肉を投げ込んだ
─────「はぁ、食った!」
奴等の血液が地面に吸いとられきる前になんとか全部を腹のなかに押し込んだ
今日は魔物の腹のなかに子供がいただろうか。いたとところで今更何をしてやる気もないが
だってお前らは俺からなにもかも奪った
なら今度は俺がお前らから奪う番だ
「ばーか」
明日も魔物が出ればいいのにと小さく呟いて、柔らかい草の地面に仰向けに寝転がる
すると昼寝をしろと言わんばかりに爽やかな風が前髪を揺らし、穏やかな太陽がぽかぽかと体温を上昇させる
瞼を閉じる直前に見えた、空に流れる薄い雲がなんだかさっき食べた魔物の形に似ている気がした
20180705
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