後輩大作戦
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そして、大嫌いな先輩もいない。
「ラム?」
だが話しかけてくる同期は、いる。
「なに」
「なんか元気ないね、どうしたの」
心配そうに言いながら顔を覗きこんでくる彼女もさほど元気があるようには見えないが
「お前だって、なんか元気ないように見えるけど」
「私?そんなことないよ?」
突然慌てたようにすっとんきょうな声をあげた彼女は、これが漫画なら周りに汗が飛び散っている演出がつくだろう
思い出したように茶を口に含むが、溶けかけた氷がストローを通って口に入ったのか目を白黒させている
「や、やっぱり隊長がいないから?」
「...別にそうじゃない」
隊長がいないのは、休みなのは構わない
むしろ足手まといの俺たち部下の世話ばかりで疲れてるだろうからもっと休んでほしいくらいだ
「じゃあ、どうしたの?サンドイッチ食べる?」
「...食べる」
マグが差し出したサンドイッチを受け取り、雑に口に放り込む。
問題は、先輩の方だ。
なんで隊長と休みが一緒なんだ。
恐らく隊長と決めたんだと思うけれど
別に先輩がいないと困るって訳でも全然ないけど
隊長も先輩といる方が楽しいんだろうけど
なんか、俺がいないところで隊長とアイツが一緒にいるんだと思うと無性に
「イライラする!」
つい口からでた叫び声に目の前のマグの体がびくっと大きく跳ねた
「な、なに?ごめん、私のせい?」
「マグのせいじゃない!あー!なんで、俺今日休みじゃないんだろ」
雑にコップを掴んで中にはいった水をグイと飲んでは、そのコップを机にドンと置き直す
「ラム、おじさんみたい」
マグは露骨に嫌そうな顔をした
嫌そうと言うより、姉が弟を叱るような、そんな印象をうける
「隊長がいないのに、表面なんか取り繕う意味ねーもん!」
「もう...」
「なんか、頼んでくる!」
席を立ち上がり食堂のカウンターに向かってまっすぐ進む
いつものおばちゃんが「いらっしゃい、ラムくん」と迎えてくれる
「いつもの!」
大声でそう叫ぶと「わかってるわよ」と笑顔を返される。
いつも朝は隊長より早く来ていたいから弁当を作る暇はないし、食堂で「いつもの」と頼むのがなんだか癖になってきて、やめられないまま常連になってしまった
別に身体に悪いモノを出されてるわけでもないからさほど気にしてもいないけれど
「はい、今日はハンバーグよ」
「ありがと!」
おばちゃんにはハンバーグが大好物だと知られているくらいだ。
いつもの───日替わりランチを受け取りマグの元へと戻る
鼻腔をくすぐるいい匂いにつられて、腹の虫がぐぅと鳴いた
「おかえり、いい匂いだね」
「ハンバーグだった」
右足で椅子をひき、できた隙間に身体を滑らせる。
年期も入っていないくせに椅子は小さく軋んだ音をあげた
「ラム、ハンバーグ好きだもんね」
そういって微笑みながらサンドイッチを口に運んでは小動物のようにもそもそと食べ進めている
倣って俺もハンバーグをフォークで突き刺して一口かじる
「マグは隊長が好きなの?」
「え?」
なにを突然言い出すの、とでも言いたげな顔で此方を見た彼女の手はサンドイッチを両手で持ったままの形で動かない
「隊長がいないから元気ないんだろ」
「そうみえる?」
「うん」
そうだよな、ザッハ隊長はあんなにもかっこいいもんな。
誰でも憧れる理想像そのものだよな。
顔はかっこいいし、仕事も戦闘も出来るし、背も高いし、優しいし、
「あのね、ラムはそうは思わないのかもしれないけど」
彼女もいるし!
「私ね、今日はトルテさんがいないから」
そう!トルテ先輩!
「なんで、隊長はあんな人を彼女にしてんだろう?勿体ないと思わない?」
「え?え?えと...」
そりゃ黙ってれば先輩は確かに美人だけど、性格がダメ
すぐ怒るし、すぐ怒るし、すぐ怒る!
俺が隊長なら絶対あんな人とは付き合いたくないもんね
ハンバーグにもう一度かぶりつくと肉汁が口いっぱいに広がった。
食堂のおばちゃんはハンバーグを作る天才だ。付き合うならこれくらい料理が上手い子がいい。
絶対先輩は料理なんてできないに決まってるもんな
「あの、ラム」
「なに」
マグは視線をきょろきょろと動かし落ち着かない
彼女が言いにくいことを言おうか迷っている時の仕草だ
「やっぱり隊長さんって、トルテさんと付き合ってるのかな」
蟻の鳴き声かってくらいの小さな小さな声でそういった彼女の頬は林檎のように赤かった
「付き合ってんじゃねぇの」
「そ、そうだよね...」
マグは何故かあからさまにへこんだ態度をとった。
やっぱりこいつも隊長狙いの女の子か
「やっぱり隊長の事、好きなの?」
もう一度そう聞くと下を向いて耳まで真っ赤に染めたマグは、勢いよく顔をあげた
「違うよ!隊長さんは、そりゃ、かっこいいなとは思うけど違うの」
その勢いに任せてそう否定したマグは、また下を向いて小さい声でこう続ける
「私、トルテさんのことが好きなの」
─────と。
「は?」
だって先輩は女の人だし、そもそも「あの」先輩のことが好きって
確かに隊長だって男だし、隊長の事を好きな俺も男なんだけど
「だからね、ラム」
「な、なんだよ」
頭の整理が追い付かない。
あんな先輩に憧れを抱いていた後輩がいて、しかもそいつが俺と仲の良い同期だなんて
「私がトルテさんと沢山話せるように、ラムはもっと隊長さんと沢山話していて欲しいの!」
本当に頭が追い付かない。
目の前で瞳を輝かせている彼女がなにを言っているのかも分からないくらいに
「ラムが隊長さんと話してる間、私は沢山トルテさんと話せるわ!逆も然りよ」
やっと言えたと続けた彼女の顔は、今までに見たことないくらいに華やかな笑顔だった
どこか冷静な自分が、こいつはこんな風に笑うのかと思ったほどに
「ね、頼める?」
そう聞いてきた彼女の瞳があまりに眩しくて
「わかった、わかったから」
と話半分に承諾してしまった。
すると、彼女の瞳はより一層キラキラと輝いた。
それはオーヴァチュアで見える、真夏の満天の星空を思わせる輝きだった
「ありがとう!ラムしか頼れる人がいなかったの!」
そういって最後のひとつのサンドイッチを一口で飲み込んだマグは席を立ち上がる
「じゃあ、またあとでね」
そのまま手をひらひらと振り、出口の方へ軽やかなステップを踏んで去っていき
─────そして、途中で盛大にこけた。
「なにやってんだアイツ」
20180708
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