「あいすがたべたい」
「んー、確かに。コンビニでも行かない?」
「今からか?まだ授業が残ってるぞ」
「僕は桜子にさんせーい。土曜日の課外なんて出てらんないのだよ」
土曜日だというのに今日は授業があって、僕たちは学校に来ていた。眠くなる古典と英語の授業を乗り越えて、僕らはいつものメンバーでお昼をつついていた。
扇風機で掻き回された熱風に、喜八郎くんがべったりと机に伏せて発した言葉をきっかけに、桜子ちゃんがコンビニに行こうと提案した。優等生な滝くんはきょとんと不思議そうに尋ねるが、喜八郎くんが少し芝居がかったように桜子ちゃんに賛同する。ちなみに僕も賛成!友達と授業をさぼってどこかに出かけるって、青春してる感じがするよね。
百花ちゃんと三木くんが呆れたように溜息を吐いた。三木くんがおまえらなぁ、と言い掛けたとき、百花ちゃんが「でも、私も賛成」と悪戯に笑った。
「な、嘉島!」
「だって田村ー、私次の数学出たくないのよ」
「だよね、だよね、はい、多数決でコンビニ決定ー」
「…はぁ」
「皆でサボりだなんてわくわくするなぁ」
僕が笑って言うと、滝くんが苦笑した。サボり癖がつきますよ、だなんて、本当に滝くんは真面目だと思う。
帰る準備もばっちりに、各自荷物を持って昇降口に集合した。滝くんや三木くんのいっぱい詰まった重たそうに膨らんだ鞄とは対照的に、喜八郎くんの鞄は寧ろ何が入っているのか不思議なくらい薄く軽そうだった。ちなみに桜子ちゃんと百花ちゃんも軽そう。喜八郎くんよりは入ってそうだけど。
「あー、涼しい」
十分ほど太陽に苛められながら歩いた先にあったコンビニは天国のようだった。桜子ちゃんがほぅ、と吐息をもらす。喜八郎くんは真っ先にアイス売り場まで走り、早く早く、と呼んだ。それに滝くんが店内では静かにしろ、と喜八郎くんに走り寄る。僕らもそんな学校と変わらない光景に笑いながらアイスを見に行った。
「何にするー?」
「滝、滝、僕ダッツ。プリン味」
「お前、何故私に払わせようとするんだ」
「あ、ソフトクリームも売ってるんだぁ」
「本当ですね、色々ありますよ」
「じゃあ三木…」
「い、や、だ」
高校生が六人もいると店内はきゃあきゃあと騒がしくなる。昼を少し過ぎて、お客さんが少ないとはいえ迷惑かもしれない。
「あんまり煩くしたら迷惑だよー。喜八郎くん、アイスなら僕が奢ってあげるから」
「タカ丸さん大好き!」
「タカ丸さん、あんまり甘やかしたら…ああ、もう!私が全部払いますから!喜八郎、今日だけだぞ」
仕方がない奴らだ、と言いながらも滝くんは楽しそうに財布を取り出す。別にこれくらい僕が出してもいいのに。遠慮なんていらないのにな。でもこれも滝くんの気遣いだろうから、笑って甘えておこう。滝くんが払う、と言ったとたん三木くんと百花ちゃんが持っていたアイスより100円高いものを持ってくる。
「平、私もダッツ」
「滝夜叉丸、悪いなあ、はは」
「三木ヱ門、お前はどうしてゴディバのチョコトリュフなんて手に取るんだ」
三木ヱ門くんはにやにやと笑いながら二粒しか入っていないのにダッツと同じかそれ以上のお値段のアイスを滝くんに押しつけた。苛々しながらも、一度払うと言ってしまったからか受け取った。本当に真面目というか律儀だよねぇ。
「本気にするな馬鹿夜叉丸。二粒で腹が膨れるか」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!
…はぁ。桜子とタカ丸さんはどうします?」
「じゃあ僕ジャンボ」
「私、あっちのソフトクリーム!」
百花ちゃんが滝くんに籠を渡してそこにアイスを放り込んでいく。桜子ちゃんは先にレジの横に行き、どれにしよう、と頭を捻っていた。
会計が終わるまで雑誌でも見ようと雑誌コーナーへ行く。ちらりとレジを見ると、滝くんがその横に立って何か話し掛けていた。チョコと抹茶を指差した桜子ちゃん。たぶん、どちらにするかで迷ってるんだろう。
雑誌を手に取らずにそのまま二人を観察してみる。滝くんは笑ってぽんと桜子ちゃんの頭に手を乗せてレジの人に注文をした。途中喜八郎くんがプリンを持ってきたけど、ぺし、と叩かれていた。元に戻してきなさい!だって。本当にお母さんみたいだなぁ。
「アイス、アイス」
「あー待て待て。喜八郎はプリン味、三木ヱ門が小豆バー、嘉島がチョコチップ、タカ丸さんがジャンボ」
コンビニの外の日陰に集まってアイスの封を開ける。噛り付けばぱりぱりの外側と、ひんやりとしたバニラアイスとチョコが広がった。なんて言うんだっけ、このぱりぱり。ウエハース?これのカスがポロポロ零れるんだけど、噛み付かずにはいられない。あー美味しい。
そういえば、結局桜子ちゃんはどちらにしたんだろう、と桜子を見ると、チョコレート色したソフトクリームを持っていた。チョコにしたのか、と思ったら、滝くんから一口もらっていた。抹茶味。
どうやら滝くんが桜子ちゃんが迷っていた味を買って、半分こにしたみたい。お互いに食べさせ合っている滝くんと桜子ちゃんを見ているとほのぼのとして胸があったかくなる。
「アイス溶けるわー」
「まったくだ。人の前でいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ!」
「夏だってのによくそんな暑いことしてられるわね」
「まぁまぁ、仲が良いことはいいことじゃない」
やってらんねー、と三木くんが忌々しそうに呟く。大事な幼なじみが取られて三木くんはご立腹らしい。三木くんらしくない投げやりな言葉は、それでもだいぶ心に整理がついたせいか冗談じみたものだけど。
そんな様子を観察しながらぱくり、と残りのアイスを口に放り込んでビニール袋にゴミを捨てる。皆のゴミをまとめてごみ箱に捨てると、桜子ちゃんがカラオケでも行きますかーと提案した。
「さんせーい!」
「まだお昼だもんね、時間はいっぱいあるねー」
わーい、と両手をあげてはしゃぐ。わいわいと何を歌うか、と話していると、後ろで滝くんの小さな声が聞こえた。
ん?とちらっと盗み見てみると、桜子ちゃんの口の端に滝くんがキスをした。みるみる赤くなる桜子ちゃんに、こちらが恥ずかしくなってきた。ごめんねぇ、二人の秘密を盗み見ちゃって。申し訳なさに慌てて前を向くと、喜八郎くんたちは呆れたように溜息を吐いた。どうやら皆気がついていたみたい。
「せっかくアイス食べたのに溶けそう」
「リア充爆発しろ」
「というかリア獣でしょ。道端でキスするとか、きゃー、狼だわ!」
「うーん、僕も彼女作ろうかなぁ……」
「滝の馬鹿ぁ!でも好き!!」
「あ、桜子!」
見られていた、と首まで赤くした桜子ちゃんは走りだした。暑さと恥ずかしさで逆上せた桜子ちゃんは、走りだしてすぐにふらふらとよろけた。滝くんがなんとか支えて倒れることは無かったけど、さらに恥ずかしそうに桜子ちゃんは滝くんの胸に顔を埋めた。
からからと皆の笑いが混ざり、桜子ちゃんも笑う。
その後は皆でカラオケに行き、ファミレスでデザートを食べてお開きにした。
また、皆でこうやって遊びに行きたいな。もうすぐやってくる夏休みにはプールや海にいって、秋は皆で紅葉狩りとかもしたいし、冬にはクリスマスパーティーなんかもいいな。
「また、皆で出かけようね」
「はい、勿論!」
じゃあ、月曜日、と皆と別れる。少し涼しい風が、滝くんと桜子ちゃんの髪をなびかせた。ぎゅ、っと二人が握り締めた手を見て、僕は笑みが浮かぶ。
帰り道が一緒の三木くんと喜八郎くんの手を握る。突然のことにびっくりしたように三木くんが僕を見る。喜八郎くんは繋いだ手をぶらぶらと揺らした。百花ちゃんが苦笑してじゃあ私も、と三木くんの手を握る。どうすればいいのかわからないような顔をした三木くんを三人で笑いながら横一列で歩く。
何気ないこんな毎日が、幸せだなぁ、としみじみと思う。
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2011/08/25 如月アスカ