斉藤タカ丸の話

 昼休みの終了を知らせる鐘が鳴り響く。トッポの話が大部分だったけど、まぁなんとか話を聞けたからいいかなぁ。


「喜八郎!」
「あー、滝」
「もう授業が始まるぞ!何をやってるんだ」
「えー、トッポの話を……」
「アホなことしていないで行くぞ!喜八郎が迷惑掛けたな、君も授業に急ぐといい。ではな」
「あ、せんぱ……」


 要領を得ない長い話に苦笑いを浮かべると、足音をたてて平先輩が綾部先輩を呼びに来た。一番話を聞かせてもらいたい人だと言うのに、先輩は綾部先輩を引き摺って行ってしまう。声を掛けても虚しく先輩方は校舎の中に入って行ってしまった。
 一つ溜息が自然と洩れる。綾部先輩の話も何とか聞けたし、後は放課後に回そう。
 携帯で時間を確認する。今のは予鈴だから、走ればまだ間に合うだろう。移動教室じゃないのがせめてもの救いだろうか。メモとペンをしまって教室に急ぐ。


「伊助、斉藤先輩って今日委員会に出るかな?」
「うん、多分ね」
「そっか、じゃあ急いで行ってくる」


 斉藤先輩と同じ委員会の伊助に尋ねると、彼は笑顔で答えてくれた。取材頑張ってね、と言う声に手を振って返事をする。
 階段を駆け降りて、渡り廊下を渡り、特別棟の学級委員長委員会の教室――まぁつまりは生徒会室みたいなもの――に入る。まだ誰も来ていないようで、がらんと静かだった。荷物を椅子に置いて、筆記用具とメモだけ持って斉藤先輩を探しに行く。
 高等部はちょうど今頃授業が終わったところだろう。先輩が委員会に行く前にに話を聞きたい。
 高等部の校舎に入って階段を昇る。斉藤先輩の後には田村先輩に話を聞こう。会計委員会は多分活動してるだろうから、帰ってしまうことはないだろう。というかあの委員会は毎日毎日何かの計算してるし。しかも今時そろばんで。代々引き継いできた伝統らしい。
 先輩のクラスの前までくると、教室の中から帰りのホームルームをしている声が聞こえる。することがない僕は上履きを眺めて先輩が出てくるのを待つ。
 綾部先輩の話は多分神庭先輩と平先輩の和解、というか神庭先輩の誤解が解けたときの話なんだろうなあ。如何にトッポが美味しかったかを熱弁していたけど。
 最後の号令の後にがらりとドアが開いた。はっとして顔をあげると、目の前ににこにこ笑った金髪――斉藤先輩がいた。


「こんにちは。取材、だよね?」
「は、はい。僕、事前に言ったりしてませんよ、ね?」


 もしかして鉢屋先輩から久々知先輩に知らせられて久々知先輩から斉藤先輩に……無いか。無い。大体知らせるにしては遅すぎるし。ぽかん、と見上げていると、ふにゃりと目元を緩ませて僕の頭を撫でる。


「喜八郎くんからメールが来てね。百花ちゃんからもメールが来てたし。多分三木くんのところにもメールがいってると思うよ」
「そうなんですか。すいません、僕たち学級委員会のほうからお知らせできてなくて」


 いいよいいよー。と笑って先輩は僕を手招きする。教室は掃除があるから場所を移動しようか。と先導する。ぺたぺたと足音を鳴らし、階段を降りながら先輩は楽しそうに話しだす。


「桜子ちゃんと滝くんの話だよね?」
「はい、先輩は平先輩たちと仲がいいですし、周りの人にたくさん聞くよりいいかと思って」
「そっかそっかー。でも、僕は三木くんや喜八郎くんみたいに二人の昔のことは知らないよ」


 昇降口まで降りると、先輩は自販機でお茶を買って僕に渡す。


「ありがとうございます。
 先輩には先輩にしか出来ない話があると思いますし」
「そうかな、ありがとう。あ、伊右衛門の方がよかった?綾鷹買っちゃったけど」
「あ、お構い無く」


 斉藤先輩はごくり、とお茶を一口飲んで柱に寄りかかる。開け放たれた扉から生暖かい風が吹き込んだ。


「滝くんも桜子ちゃんも、本当にいい子たちだよ。去年、僕が中途半端な時期に編入してきたのに、優しくしてくれるし」


 この学校に来て最初の友達なんだ。
 ふわふわと夏の風が先輩の髪を泳がせる。先輩のその表情がとても優しくて、本当に皆が好きなんだなあと伝わる。


「滝くんは本当に優しくて気配りのできる子なんだけど、皆には誤解されてるんだよね。桜子ちゃんは、皆が知らなくても私たちが知っていればいいの!なんて言ってるけど、やっぱり寂しいな」
「じゃあ、先輩がたくさん平先輩たちのいいところを教えてください。僕も皆に二人のいいところを知ってほしいですし」


 鉢屋先輩は二人の恋愛模様としか言っていなかったけど、それ以外でも構わないだろう。


「ありがとう。じゃあ僕は最近の二人の話をしようかな」


 再びお茶を飲んで先輩は嬉しそうに口を開いた。僕もメモを開いてスタンバイする。先輩の笑顔につられて、僕も自然と笑みを浮かべていた。





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08/16 如月アスカ