まだ諦められない

 好きな子がいた。クラスでもかわいい子で、田村の幼馴染みだった。中三に上がってから、その子は髪を伸ばしはじめた。運良く隣の席になったときに、勇気を出して話し掛けた。「髪伸びたね。長いのも似合うじゃん」そう言ったときの彼女の笑顔は、オレが今まで見てきた中で一番の笑顔だった。


「ありがとう、嬉しい」


 長い髪は、彼女の所属する委員会では鬱陶しそうだと最初は思ったけど、彼女が髪を一つに結んだ時がとても可愛かったから、それでも良いと思った。次の日、彼女の髪は上で二つに結ばれていた。


「一つもいいけど、二つもかわいいね」
「本当?可愛い?」
「うん」


 二人でそうやって笑いあって、オレたちはどんどん近づいていった。と思ったのはオレの勘違いだった。


「平くんもね、そう言ってくれたの」
「へ、え…平が」


 目の前が真っ白になった。彼女は何と言っただろうか。平、と言ったか。もしかして、彼女は平が好きだと言うのか。あの、自惚れ屋でナルシストだと、いい噂なんて聞かないような奴が。
 彼女が髪を伸ばしはじめたのは中三になってから。中三になってから彼女は体育委員になった。平に、であった。彼女が髪を伸ばしはじめたのは、平に言われたりしたから?髪を二つに結ったのも、平が可愛いとでもいったから?じゃあ、オレが可愛いと褒めたのも、似合うと言ったのも、全部平が言ったあとだったのか?
 ぐるぐると頭のなかがごちゃ混ぜになる。混乱したまま誤魔化すように笑った。


「あの自分好きな平も、人を褒めることがあるんだな、はは」
「平くんは、皆が言うほど嫌な人じゃないよ。私も最初は鬱陶しい人だと思ってたけど、本当はとっても優しくて頼りになるし、面倒見もいいんだから」
「そう、なんだ」


 やめてくれ、もう、やめてくれ。
 彼女の口から平のことが出るたび、胸に刃が突き刺さるようだった。彼女を想う気持ち分、平が憎くなる。ああ、嫌だ嫌だ。平なんて、嫌いだ。でも、彼女を嫌うことは出来なかった。どうして君は、オレを好きになってくれなかったんだろう。二年も経つのに、まだオレは君が好きだよ。
 ねぇ、神庭。





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彼が滝夜叉丸を嫌うのは、ただの逆恨み。わかっているけど想いに区切りがつかない。
201108/02 如月アスカ