荒れ狂った就職活動を無事乗り越え明日から新社会人の理久。
一人暮らしの静かな部屋の壁には真新しいスーツが掛けられている。
それを一瞥して、理久は小さな仏壇の前へと座った。

「お父さんお母さん、おかげで無事就職できるよ〜!ありがとう!私頑張るから!」

理久が手を合わせ拝む先には男女二人が写った写真が飾られている。

「でもまだまだお世話になります!」

両親は理久が小学校2年の頃に交通事故で亡くなった。
一緒に車に乗っていた理久は奇跡的にも無傷で、一人だけ助かったのだ。
周囲の人間は、それはそれは理久を哀れんだ。両親に対しても、まだ幼い一人娘を残しさぞ悔しかろうとも言われた。
しかし理久は周りに何を言われようとも、どこ吹く風。
何故なら、理久のそばには常に両親が居たからだ。───幽霊として。
事故をきっかけとして理久にはとある能力が開花した。所謂"霊感"である。
霊感と一言に言っても、理久にとってはそれだけではなく、"直感力"や"危機感知能力"も含まれる。

そのまま母方の祖父母に引き取られたが常に両親が居たし、会話もできたためちっとも寂しくはなかった。
……ちっともというのは大袈裟かもしれない。確かに普通の親子のようなことができないのは悲しくもあった。
それでも、本当ならば見えないはずの両親を見れるということは不幸中の幸いのようなもので、理久はそれだけで有難かった。
幽霊になった両親には、自分達が見えることは誰にも言うなと言われたが、祖父母には打ち明けた。
祖父母だって、二人が亡くなって悲しんでいたのだ。自分だけが会えるのは不公平だと、意を決して理久は伝えた。

幽霊が見えるなんて言ったら軽蔑されるし、気持ち悪がられる。両親にはそう何度も言われ、理久も大変怖かった。
しかし祖父母は「すごいことだ」と喜んで、なんなら知り合いの僧侶を紹介され今後役に立つであろう回避する技などを教えてもらった。
さすがは母の親である。

良い幽霊も居れば死ぬほど恐ろしい幽霊も居た。何度も死にかけたが、両親の助けや祖父母、僧侶のおかげもあり今や立派に簡単な祓い屋もできるように成長したのだ。

高校を卒業と同時に、理久の両親はついに姿を見せなくなった。
会えるのは彼岸とお盆のみ。会える回数はぐっと減ったが、両親にとって心配の種だった理久は真っすぐ育ち、離れても大丈夫だと思えたのだろう。
二人を安心させられたことに、理久は嬉しくもあり、とても寂しかった。
だがいつまでも落ち込んではいられないのが人生だ。
育ててくれた祖父母の元を出て一人暮らしを始め、新社会人としてのスタートを切ろうとしていた。

そんな矢先に。

『猫宮理久様。当選しました、おめでとうございます』

何故かそんな胡散臭い手紙がテーブルの上に置かれ、内容を読んだ途端に視界が暗転した。