06

どうしてこんなことになってしまったのか。
あの衝撃的な昼休みから数日後のまたしても昼休み。
理久は複雑な思いを抱えたまま屋上に居た。

「一緒にご飯できて嬉しい…」

理久の隣に座ってお弁当を広げる美歩は照れ臭そうにそう呟いた。
そう、理久は美歩にお昼を誘われ、断れずに今に至るのだ。
照れた表情の美歩は本当に可愛く、見ているだけなら永遠に見ていられる。

「いいんですか、その、テニス部の人達は…」

もう起きたことはどうしようもないが、今日のことで確実にテニス部に敵認定される、絶対される。

「あー…、彼らとご飯行くと、全然食欲わかないから…」

だからいいの。と表情を曇らせつつ理久に笑いかけた。
そんな彼女を見てしまったら同情せざるを得ない。というか、あんなイケメンに囲まれて堕ちない彼女はすごいなと思う。これがヒロイン力かと前回に引き続き思ってしまった。
そうなんですか、と返し理久も鞄から昼ご飯の惣菜パンを取り出した。
ごそごそとしていると、視線を感じた。言わずもがな、美歩である。
理久は極力きつい印象を与えないように目元を緩めながら、どうしました?と問いかけた。
あんなに避けて通りたかった相手だが、いざ対面してしまえばちょっと好かれたいなんて欲がほんの僅かだが生まれてしまう。
すでに絆されている自分に情けなくなってしまった。

「あのね、その、名前……名前で呼んでいいかなって…」

クラスメイトから怖がられようと何しようと、直接そんなことを言われて断れる度胸は実は無い。ていうか大抵の人はそんな度胸ないだろ。

「ど、どうぞ…」
「ありがとう!私のことも美歩って呼んでくれたら嬉しい…!」

あー、跡部あたりに滅されそう。


****


当たり障りのない話をしながらご飯を食べ終えてもまだ時間はある。
この時間をどうしようか理久が悩んでいると、美歩が鞄から何かを取り出した。

「ごめんね、いつもだとちょっと本読む時間なくて…今読んでていいかな」

申し訳なさそうに言う美歩の手には、文庫本が握られていた。
すごい、初めて昼ご飯を一緒にしながら無理に会話しようとせず自分の時間を堪能しようとする彼女に脱帽した。人として尊敬するし何ならそういう友達が欲しかった。どうしよう、もはや私からも友達になってくださいって言いたい。
ていうかその本めっちゃ好きなシリーズ〜〜〜!!
うそ!やばいめっちゃ語りたい!どのシーンが好きかとか登場人物誰好きかとか聞きたい!!

「あ、の…その本って」
「理久ちゃん知ってる?」
「まあ、その」

うわ〜いきなり語り出したら引かれるかな…こんな見た目のやつが小説語り出したら逆にキモいよな絶対……

「漫画!それ漫画になってましたよね?私それちょっと読んでて」
「知ってるの!?嬉しい!漫画いいよねこれ、絵も上手いし、原作の良さがすごく出てて!」

わかる、わかります。原作の雰囲気が全く壊れてない上に漫画家さんの表現力の凄さに驚かされましたね。

「これ今映画にもなるじゃない?そっちもすごく楽しみで」

わかる〜〜〜予告見たけどキャスト神ってた〜
ううううどうしようこのまま隠しながら話すのしんどい…全てを曝け出したい…どうしよう…

「あと、この作者さんの本でね、漫画にはなってないんだけどファンタジーっぽいミステリー作品があって…」

すごく面白いんだ、と言葉を続けた美歩は途端に目を伏せた。

「どうしたんですか」

理久は戸惑いながら問いかけると、美歩は遠慮がちに口を開く。

「私が好きな本の話とかどうでもいいよねごめんね…ちょっと好きなことになるとおしゃべりになっちゃって…」

おいまさか、あのテニス部の奴らは彼女の話にどうでもいいとか言いやがったのか?

「誰かに言われたんですか?」
「そんなキツくじゃないけど、まあ、うん」
「え、もしかしてテニス部の人?」
「………まあ、運動部の人からしたら本の話なんて興味ないよね…」

ぶちのめしたろかあの馬鹿どもが。ふざけんなよ。

寂しそうに本を撫でる美歩を見て理久は天を仰いだ。そして何かを決意したように大きく息を吸う。
よし、と小さく声に出して自らも鞄から本を出し、遠慮がちに彼女に見せつけた。

「…それ、!」

美歩は大きく目を見開き、期待に満ち溢れた表情を咲かせる。

「私も好きなんですよ、その人の作品」

理久が取り出した本こそ、美歩が言っていたミステリー作品だった。