「猫宮理久です、よろしくお願いします」

理久が自己紹介をすると教室中から拍手が起こる。
そう、"教室"である。
職場のフロアとかではない、正真正銘教室だ。
幼くなった自分の顔に合わせそこそこ長い髪を二つ結びにしてみた。中学生になったんだから痛くない痛くない。

「猫宮の席は、あそこのほら、空いてるとこだ」

分かるけど。適当さが声に滲んでいて少し虚しくなる。
とぼとぼと歩いて机までくるとストンと着席した。
そうして理久は考える。何故こうなった、と。


あの手紙にはとんでもないことが書かれていた。


『当選通知』

新社会人を対象にした大規模トリップ抽選の結果、猫宮様が当選されました。
内容は次の通りです。

・トリップ先:テニスの王子様
・学校   :氷帝学園
・学年   :中学二年生
・登校日  :六月吉日
その他
生活費は毎月口座振込予定。両親、祖父母共に他界。
親類の承諾を得なければならない場合のみ遠戚からの連絡あり。
独自の"能力"は継続して有します。

以上

そして最後はこう締めくくられていた。

『素敵なトリップライフを!』

何が素敵なトリップライフをだ。
どうやらトリップしたらしい。そんなバナナ、いやそんな馬鹿な。
夢であってほしいと思いながら周りを見ればしっかりと現実である。
幽霊と隣同士という非現実的生活を送ってきたが、ここまで非現実的な出来事は求めちゃいない。
祖父母も居なけりゃこっちの世界でお盆や彼岸に両親と会うことはできるのだろうか。何故応募もしていないのにそんなものに当選してしまったんだ。新社会人対象とか、個人情報漏洩にも程がある。
能力というのは霊感のことだろうか。別に有さなくても……いや両親に会えなくなるのは困るな。こっちで会えるのかは分からないが。

仕事に行かなくてもいい嬉しさと、トリップという摩訶不思議アドベンチャーな目の前の現実に理久は内心項垂れた。
というかこの教室にテニスのキャラクターが居ない。良いのか悪いのか……良いことにしておこう。

****

割と今の中学生は淡泊なのだろうか。
今朝から誰とも話していない。自分から話しかけることもなければ誰かに話しかけられることもなく、刻々と時間は過ぎていく。
二度目の中学校生活こんなんでいいのか!?

放課後。これからのことを考えながら、先生に何か部活に入れよと言われたため部活見学という名の校内探索をしようと決めた。
椅子に座りながら先生に貰った部活一覧表に目を通す。一番良さそうなのは天文部だ。楽そう。


「おい」

部活一覧表と睨めっこをしていると何やら呼ばれたような気がする。
そして女子の声がものすごーく、うるさ……やかまし………元気だ。
理久は首を後ろへ向ける。

「猫宮だな」
「…………ひゃい」

愕然とした。
同級生キャラをすっ飛ばし第一村人ならぬ第一テニキャラは跡部だった。

「来い」
「…どっ……どこへ」
「黙ってついてこい。鞄も忘れるなよ」

行くぞと顎で合図をされる。
何故、何故跡部、何故。そんな疑問が頭の中を占めるも、混乱真っただ中なため正しい判断ができない。
周囲の女子の痛すぎる視線を背に受けながら、理久は跡部の後を追った。