善は急げだ。
テニス部の部室を出てから職員室へと全力疾走する。
さっきは他の部活に入るなどと叫んでしまったが、部活など入りたくない。
部活に入ったほうがいいのだろうが、放課後はなるべく早く帰宅したい。夜は、良いモノも悪いモノもたくさん呼び寄せやすいからだ。
自分は今一人暮らしだから、部活に入って夕方帰ると色々大変だと担任に熱弁をする。すると担任は目に涙を溜めながら「わかった」と頷いてくれた。
中学生の一人暮らし大変なんだよそうなんだよ(適当)

「あと!!私全然大丈夫なので、跡部さん?とかに私を任せるのやめてください…!!」
「でもな…心配で……」
「本当大丈夫なんで!!親戚の人もよく連絡くれるんで本当そこまで構わなくて大丈夫なんで!!」

理久がそう熱弁すれば担任は気圧されながら頷いた。ありがとうそれでこそ先生だ。
やるべきことは片付いたのでまたまた全力疾走で家に帰った。今すぐ転校したい。

****

次の日、理久は数人の女子生徒に呼び出された。展開が早すぎると理久はげんなりする。

「あんた、跡部様とどういう関係よ!」

このテンプレな展開。恥ずかしすぎて色んな意味で泣きたくなった。

「先生方に言われて私を気にかけてくれただけで、本当何もないんです」
「まさか、マネージャーになったわけじゃないでしょうね」
「なってないですなってないです」

彼女達の視線は鋭さを増すばかりである。どうしよう。
というか何故氷帝なんだ。もう少し平和な学校へトリップしたかった。跡部が居る時点で平和という概念はないものに等しい。

「おい、何やってる」

理久が"色んな意味で"泣きそうになっていると、声がした。

「跡部さんに聞こえても知らねえぞ」

ひ よ し だー!
跡部という単語に彼女達はびくりと肩を揺らし、走って逃げだした。その後を追うように彼女達に紛れて理久も走り出したが何故か日吉に捕まってしまう。
驚いて振り向けば、昨日の異形と目が合った。

「ギャアアアアア!!」
「うるさ」

日吉は顔を顰め理久を睨む。睨まれる筋合いはない。理久から言わせてもらえば廃墟巡りやら心霊スポットに安易に行って変なもの連れてくるお前マジふざけんなと思う。
突然の驚きにバクバクと跳ねる心臓を落ち着かせるため胸を押さえた。

「……まだ憑いてるってことか」
「超目合ってるわ」

二度目となると理久も慣れる。何よりそこまで相手に悪意がない。

「お前は、視えるんだな」

奴と目を合わせていると、日吉の、どこか嬉しそうな声がした。

「うわめっちゃ目キラキラしてるこっわ!!」

日吉に目を向ければ、彼は子供のように目を輝かせて理久を見ていた。こわい。

「俺は日吉若、同じ二年だ。猫宮、連絡先を交換しよう」
「Why?」
「初めて霊感があるやつに出会えたんでな。この機会を逃すわけにいかない」

逃がすわけにはいかない、そう言いながら理久の手首を掴む手の力が強まる。
引く気がないのが100%丸分かりだ。

「………日吉って呼んでいい?」
「ああ」

嬉々として了承する日吉と連絡先を交換した。
トリップ後初の友達はまさかの日吉でした。