どうにも日吉に憑いていた幽霊に接触してからというもの、前にも増して感覚が鋭くなった気がする。
いらない刺激を受けてしまったことに理久はげんなりした。
唯一の救いは日吉とクラスが別だということだろうか。いや、そうでもない。クラスは別だが隣同士のクラスということで頻繁に廊下で出会ってしまう。
廊下に出なくたってたまに呼び出される。勘弁してくれ。
日吉と仲良くなったことによって周りから話しかけられるようになったが、何きっかけで仲良くなったのかと問われ理久はしどろもどろになりながら「オカルト系…」と答えると再び周囲とは疎遠になった。
何故日吉はオカルト好きと公言していながらも周りにそこそこ人が居るのに対して私の周りには人ひとりいないのか。
顔か。顔のせいなのか。イケメンなら何が好きでも許容されるということなのか。

「おーい、話聞いてっか?」

突然自分以外の声が聞こえて理久はハッとする。
そういえば昼食後、向日に呼び出されていたのを忘れていた。居るのは向日だけではなく、あの丸眼鏡が忍足も居る。

「お前って結局何なの?日吉に何した?」

訝し気に向日が顔を顰める。

「日吉があそこまで人に、しかも女子に懐くなんて有り得へんねん。自分何したん?」

忍足は表情こそ変わらないがオーラは不穏だ。漫画的展開かって。お決まりすぎて読み飛ばしてしまいたくなる展開かって。
ここまでくると下手に言い訳をするより本当のことをそのまま言ってしまったほうが楽かもしれない。
言ったって隠したって、どうせ自分には友達一人いない。ぼっちなのだ。失うものはない。

「私もオカルト好きなもんで、そこがちょっと意気投合して今のようになりました」
「あーじゃあこないだの部室での騒ぎ、日吉の気引くための演技か?」

そうきたか。待って待って、転校初日にまだ会ったこともない人間に対してあんな幽霊視えるんです演技するってなかなかにリスキーじゃない?普通に頭おかしい人って思うのがオチじゃない?
しかも日吉がオカルト好きなんて初日でどうやって調べんの?不可能では?

「私皆さんとあの日が初対面だし日吉がオカルト好きなんて全く知らなかったんですけども…」
「クラスの女子に聞けば一発だろ?」
「いやだからあの部室で会ったのが皆さんを初認識したので、女子に聞くも何も皆さんの存在をその時に知ったのにどうしろと」
「しらばっくれる気満々かー」

どうしろと。どうしろと!!
そんな、「この学校にはイケメンが居てね」なんて話せる女子友達欲しいわ。いないんだわ。友達一人いないんだわこっちは。

ここからどう会話を進めようか悩んでいると人が近づいてくる気配がした。

「何してるんですか?」

元凶の日吉だった。お前の先輩どうにかしろ。

「日吉、お前騙されてんだよこいつに。目覚ませって」
「はぁ?」
「どうせお前の趣味知って近づいてきただけなんだから、こいつに関わるのやめろ」
「何で向日さんに言われなきゃならないんですか」
「日吉。俺も岳人に賛成や、この子はやめとき」
「意味がわからない……それより猫宮、これ」

向日と忍足を尻目に日吉は理久に一枚の紙を手渡してくる。そこには入部届と書かれ、部活名には男子テニス部と書かれていた。
そのまま下に視線を落とせば理久の名前が書かれている。何の悪夢だこれは。

「日吉」
「何だ」
「何これ」
「お前の入部届」
「私書いた記憶ないんだけども」
「俺が書いた」
「ドヤ顔しながら文書偽造してんじゃないわよ」
「安心しろ、選手としてじゃない。マネージャーとしてだ」
「当たり前でしょ選手としてなら性別が追い付かないわ」

日吉はオカルトが関わるとどうしてこうもポンコツになるのだろうか。

「こんなん手渡されちゃ破くしかねぇ」

そう言って理久はその紙を真っ二つに破った。

「それコピーな。原本はさっき顧問に渡してきた」
「この茶番は事後報告かい!!?嘘だろ!?」
「お前が部活に居れば色々起こりそうな気がする」
「自分の楽しみ優先させてんじゃねえええええええ」

いつになく嬉々とした表情で理久を見つめる日吉を、理久は目を細めて睨んだ。
効果はイマイチだ。