帰りのHRが終わると速攻で教室を出る。何としてでも今すぐ入部届を破棄してもらわねばならないと理久は足を速め、
「だッ!!」
何かに躓いてすっころんだ。
膝を床に擦って最高に痛い。何に躓いたんだと理久が涙目振り返ると、床から青白い手が二本生えていた。
その手は愉快気にワイワイ動いている。万歳三唱しているようで大変腹が立った。
「……何してんだお前」
床から生えた手に気を取られていると、背後に日吉が立っていた。
「………転んだ」
「は?ここで?」
「…そこに生えてる腕にやられた」
「どこだよ」
日吉は理久に手を差し出す。見せろということなのだろう、理久はしぶしぶ日吉の手を握った。
「……何か楽しそうだな、アレ」
「人転ばせて喜んでんだよ…」
理久が日吉の手を離そうとすると、手を強く握られる。そのまま勢いよく引っ張られた。
「うわッ」
「いつまで座ってるつもりだ」
引っ張られた勢いで思い切り日吉にぶつかってしまう。痛めた鼻を押さえながら日吉を見上げれば綺麗な顔が思ったよりも近くにあり僅かにドキリとしてしまった。
「部活行くぞ」
そうだった。
「いや待って、私ちょっと、先に用事が…」
「入部届は受理されたから無駄だぞ」
「思考読まれてんのすごい腹立つ〜」
そのまま手を離されることなくテニス部へと引っ張られて行くのだった。
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「で、結局入部か」
跡部にそう言われ理久は押し黙る。
何か自分の意思で入部してきたような言われ方で大変腹立たしい。
「跡部、こいつは手元に置いといたほうがいい。絶対。」
「……お前はこいつに弱味でも握られたのか、向日」
図星な問いかけに向日はから笑いをして目を逸らした。
「弱味っていうか…」
「お前は喋んな!いいから!静かにしてなさい!」
黙らっしゃいと向日に叫ばれ理久は再び黙ると同時に肩を震わせて笑った。それを見ていた忍足も口元を押さえて笑っている。二人でブルブルと肩を揺らし笑う様はより向日を焦らせた。
「オメーら笑ってんじゃねーよ!!」
「ふふっ……ふ…むり……っく、ふふふっ」
「お嬢ちゃん、そない笑たら岳人がかわいsぶふっ」
「んっふwww」
日吉は笑う二人を見て若干呆れてるようだ。
「…まあいい。せいぜい邪魔にならねえよう頑張れよ」
ぽんと理久の頭に跡部の手が乗る。
あの跡部様に触れられていると思うと全国の雌猫に対して申し訳なさを感じてしまった。すまんな……
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「新人ちゃん?可愛い子が来たね〜!よろしくね!!」
男子テニス部のマネージャーは全部で2人。結構な人数居るのかと思ったがそうでもなかったようだ。
またしても夢小説にありがちな部内イジメがあるのではないかと冷や冷やしていたが、意外にも皆好意的だ。
2人共三年らしく、自分だけ二年の理久は妙に緊張していた。
先程の元気いっぱいなのは松本香苗だ。
「後輩が居なくてどうしようかと思ってたのよー、良かった」
松本先輩とは打って変わって大人びているのがこの加藤美和。二人は理久が緊張しているのが分かると苦笑して、何故かお菓子をくれた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、イジメたりなんてしないから!」
「まー、今まで入ってきた子達にはちょーっと厳しくしちゃったけどね…」
容易に想像できる。大方彼らに夢中で仕事しなかったとかいうやつだ。
「日吉が懐いてるくらいだもん、今までのような子じゃないってのは分かってるし」
加藤先輩が笑いながら理久の肩をぽんぽんと叩いた。
「…あの、基準が日吉でいいんですか……」
「今までの子全員フルシカトしてた日吉が無理矢理入れた子なら、間違いないって」
フルシカト。ああ……やってそうだなあいつ…
「てわけだから、これからよろしくね、猫宮ちゃん」
よくよく考えてみれば同級生に友人がいない理久にとって、これは大きな進歩とも言えるだろう。そこだけは、少しだけ、日吉に感謝した。
「よろしくお願いします」
理久は照れがちに笑って頭を下げた。