マネージャーを始めてからというもの、約束通り日吉が毎日家まで送ってくれている。悪いな…と思っていたもののどうやら家の方向が同じらしい。なんなら理久の家を通り過ぎるらしく、所謂ついでというこだ。
次第に暑さが増していく毎日で、マネージャー業というのはなかなかに辛い。待てよ、これ加藤先輩達が居なくなったら自分一人でやらなきゃ……?…いや、今は考えないようにしよう。理久は頭を振って目の前の仕事に集中した。

仕事を終え、マネージャー用の部室で着替えを済ませる。
その日は妙に松本に元気がなく、加藤と二人で首を傾げていた。
着替えをしている最中、バレないよう松本を観察していると、松本の足元に何かが見えた。

───猫の尻尾だ。

茶色と白の斑で、ピンと細長い。
その瞬間、理久の背中に悪寒とはまた違うざわざわとした感覚が走った。

「松本先輩」
「ん?」
「早く、帰ってください」
「……んん?」

唐突にそんなことを言われたら、首を傾げるだろう。現に松本はスマホを片手に真顔で首を傾げていた。

「待ってます。先輩が帰ってくるまで頑張って待とうとしてます。今すぐ帰らないと、間に合わない……茶色と白の模様の、彼女」

そう言った途端、カシャンと音を立てスマホが床に落ちた。
松本は何も言わないまま少しの間呆け、理久を見つめる目にはじわじわと涙が溜まっていく。
そして素早くスマホを拾い上げ鞄を掴めば勢いよく部室を飛び出して行った。
思わず後を追いかけて部室を出れば、驚いた表情のレギュラー陣が居た。

「猫宮ちゃん、今の…どういう……」

背後から加藤の心配そうな声がする。
走っていく松本の背を眺めながら、理久は眉間に皺を寄せ泣きそうな表情を浮かべた。

****

今日の帰りは日吉に加え、加藤も一緒だった。
先程の話を聞くためだろう。

「ねえ、猫宮ちゃん、さっきのって…?」

理久と加藤が並んで歩く後ろを、日吉がついてくる。

「松本先輩って、猫飼ってませんか?」
「飼ってるけど……そういえば最近あまり調子が良くないって言ってたな…」
「多分……今日が限界だったと思うんですよ」

どうして分かるんだと、加藤が首を傾げた。

「私…人より霊感強くて……なんかそういうの分かっちゃうんですよね」

軽蔑されるだろうか。世の中みんながみんな、日吉のように好意的ではない。気味が悪いと思う人だって多いはずだ。
加藤はどうだろうか。怖がって、距離を置いてしまうだろうか。

「だから日吉が懐いてるのか!」

そこか〜

「別に懐いてるわけじゃないんですけど」

すかさず日吉が背後から口を挟んだ。

「傍から見たら懐いてるとしか言いようがないのよ」
「心外だな」

ちらと後ろを振り向けば顔を顰めた日吉と目が合った。指を差して笑ってやれば後ろから頭を叩かれる。何故だい。

「…松本先輩、最期に会えたかなぁ」
「きっと会えたでしょ。足速いもの、あの子」

途端に目に涙が込み上げる。愛おしそうに松本の足元に擦り寄る綺麗な猫を思い出し、理久は鼻をすすった。
そんな理久を加藤は横目で見て、理久の背中を優しく叩いた。