部活帰り、ふらっと本屋に入る。
自分も欲しいものがあったからと日吉も一緒に店内に入り、それぞれ趣味のジャンルの棚へと足を進めた。
理久は現代ファンタジー系の小説が好きで、その中でも恋愛色があまり濃くないものを好む。
小説の棚の前に立ち背表紙を見ながらピンときたタイトルの本を数冊手に取り、あらすじを確認するとレジに向かった。
購入する本の中には、『鏡が異世界と繋がっている』というよくありがちな設定の本もあり、どんな展開を見せてくれるのか期待だ。
お互いに本を購入して、再び帰路につく。
「何の本を買ったんだ?」
「適当に文庫本だよ。日吉は?」
「地方に言い伝えられる怪異集」
「うわぁ」
さすが日吉と言ったところか。本の内容に思いを馳せているのだろうか、薄っすら笑ってる気持ち悪い。
「そういえば」
「?」
「日吉は異世界信じる?」
「何だ急に」
先程の本を買ってから、そういえば自分はある意味異世界から来たのだと思い出した。順応性が高いのか、はたまたさほど前の世界の生活と大差ないせいなのか、理久はすっかり馴染んでしまっている。
「まあ信じるよ。宇宙人だって居るだろうし、現に幽霊は存在しているからな」
「じゃあ私が異世界から来たって言ったら信じる?」
「はぁ?」
そんな話をしていると、いつの間にか理久が住むアパートの前に着いたようだった。
「じゃ今日もお疲れ!また来週ね!」
「待て待て待て待て馬鹿待ておい」
さよならの挨拶をして中へ入ろうとする理久を日吉が捉まえる。
せっかく明日休日なのだ、早く部屋に帰って夜更かししたい。
「何」
「いや何じゃねぇお前、意味深なこと言っといてまた来週とかふざけんな生殺しかって」
「例えばの話じゃん〜」
理久の手首を掴む手は離れない。離してもらおうと引っ張るが男の子の力に敵うはずもなく、びくともしなかった。
ふと、視界の端で何かが揺れる。
「日吉今時間ある?ちょっと寄ってかない?」
「…どうした?」
「まーまーお茶でも飲んでいきなさいよ」
今度は理久が日吉を引っ張る。先程の話を聞きたいせいか、戸惑った表情を見せるものの素直に理久に寄った。
電柱の影に隠れこちらを様子見る存在に意識だけ向け、訝しむ日吉を少し無理矢理引っ張りアパートの階段を上る。
「お前、急にどうした」
アパートの部屋に入るなり日吉がそう聞いてくる。理久は適当にソファに座れと促しながら冷蔵庫の麦茶を取り出した。
「不審者居た」
「は?」
「あ、大丈夫。目くらましかけたから部屋はバレてないよ」
「いやお前それすご、じゃなくて何だ不審者って、いつから」
今日の放課後、最近不審者が出没しているから注意するようにと担任の先生が言っていた。多分そいつだろう。
「あのまま日吉が一人で帰ってたら危なかったかなーと思って連れ込んでしまった。ごめんよ」
すまんすまんと言いながら日吉に冷えた麦茶を差し出す。
「別に俺はそこまで弱くねぇ」
「そうだろうけど、知ってて回避するのと知らないで回避するのとじゃあ色々違うでしょ」
日吉は小さく溜息を吐いて、麦茶に口をつけた。
「で、さっきの異世界から来たってのは?」
「やけに食いつくな」
「実は少し前に異世界から人を呼び出す儀式のようなものをしたんだよ」
「日吉お前マジやべえな。マジかよ。どうなったの」
「結論から言うと失敗だな、何も起こらなかった」
「まあ簡単に成功してちゃ世の中大変なことになってるよね…」
にしても日吉は本当そういうことが好きだなと理久は軽く引いた。
しかし、異世界召喚をしたとな。
まさか自分とは関わりあるまいと思いつつ、日吉に訊ねる。
「ちなみにそれをしたのはいつ」
「あれは………あー、確かお前が転校してくる前日だな」
「………おっとぉ…」
もしかして。
もしかしなくてももしかして?
「異世界って言ってもラノベによくありがちな世界じゃない。自分達と同じような世界の、まあパラレルワールドに似た世界から人を呼ぶ儀式だな」
「まさか私がトリップしたのはお前のせいか????」
「あ?」
不審者とかどうでもよくなってしまうくらいには重要案件である。