動揺に動揺を重ねてしまい思っていたことを思わず口に出してしまう。
「あっ、何でもない今のナシナシ」
時すでに遅しではあるが理久は咄嗟に両手で口を塞いだ。
「無理があるだろ、説明しろ」
「ほらもー外暗いし!帰れ!」
自らの手によって閉ざされた口だったが、日吉の手により易々と外されてしまう。両手首を掴まれたため身動きができず、そして妙な体勢のため若干恥ずかしさがあった。
日吉が口を開きかけた瞬間、どちらかのスマホが鳴る。
「……鳳…?」
着信を知らせているのはどうやら日吉のスマホらしく、彼はスマホのディスプレイを見て眉間に皺を寄せていた。
一瞬の沈黙の後、日吉は鳳からの電話に出る。
「どうし…」
『日吉!!』
少し離れていた理久にも聞こえる程の声量に日吉は咄嗟にスマホを耳から離す。それでもかなり耳に負担が残ったらしく思い切り顔を顰めていた。
「うるせぇ……何なんだよ」
『日吉今どこ!?部室来てくれない!?』
「はぁ?何で」
『忘れ物取りにきたら部室から出られなくなったんだよ!』
日吉は鳳との通話をスピーカーにして理久にも聞こえるようにした。
「鍵かけられたのか?」
『俺が鍵持ってるのに!?』
「……」
『宍戸さんや跡部部長達に電話しても誰にも繋がらなくて、日吉だけなんだよ繋がったのが…!』
そこで、どうやら面白そうだと思ったらしい日吉がにやりと笑う。そんな顔してないではよ助けに行ってやれやと理久は呆れた。
隣で様子を眺めていた理久だったが、鳳の声に混じっておかしな声を拾った。
「ねえ鳳くん」
『……もしかして猫宮さん?日吉、猫宮さんと一緒だったのか』
「鳳くんさ、今一人だよね?」
『そうだけど………え待って待って何怖いって!』
明らかに、鳳の背後から女のか細い声が聞こえている。何を言っているのかはわからないが確かに聞こえるのだ。
そして次の瞬間、
「ッ!?」
絶叫というのはこういうことを言うのだろう。
鳳の背後でぼそぼそと何かを喋っていた女が突然大声で叫んだのだ。その声は理久にしか聞こえていないらしく、あまりの大絶叫に理久は思わず耳を塞いでしまう。
「おいどうした」
「……び、びっくりした…こっわ……」
『ねえ何が!?猫宮さん何が!?』
「鳳くん、今から行くからちょっと待っててねぇ」
『あっ、うん分かった……!』
そこでタイミングよく通話が切れる。
理久は自室へ走ると適当な私服に着替えた。
「へい!行くよ日吉!」
「行くには行くが、何か居たのか?」
「何か前から思ってたんだけど鳳くんってちょっと憑かれやすいんだよね…でも普段は守られてるから何ともないんだけど、学校って集まりやすい上に一人でこんな時間に居たらまあ……守りきれなくなる時もあるよね」
二人は急いでアパートを出ると学校まで走る。
さすが日吉、運動部なだけあって足が速い。大変腹立たしい。
「おせぇ」
「運動部と一緒にすんな!これでも速いほうだわ!」
「まあ確かに」
そこそこ息を切らしながら男子テニス部の部室前まで来ると日吉がドアを開けようとする。が、鍵が掛かっているようにびくともしなかった。
「鳳!居るか!」
「日吉!?」
「お、生きてた」
「勝手に殺さないでよ!」
ドアを隔てコントをしている様子を眺めながら、理久は部室内に意識を集中させる。
───おお……すっげえ…
こちらに対して悪意剥き出しの存在が居る。最高に怖いやつ。
「鳳くん大丈夫ー?」
「あ、猫宮さ……」
その瞬間、部室のドアが大きな音を立てる。内側から思い切り殴られたような音だった。
「待って待って今の何!?俺何もしてないよ!?」
「ちょーブチ切れてらっしゃる」
先程よりも増した悪意が部室内から漏れ出してきているのがよく分かった。
「何が居るっつんだよ」
日吉にそう問われ、答えようとした時再びドアが大きな音を立てた。心臓に悪いからやめていただきたい。
「はいはい今開けますよ!」
「猫宮、お前どうやって…」
理久はポケットから一枚の紙切れを取り出すと、それをドアノブに巻き付けドアを開ける。
難なく開いたドアに日吉は目を丸くし、中に居た鳳が理久達を認識した瞬間安堵の表情を浮かべて思わずといった風に理久に抱き着いた。
ただでさえ体がでかい鳳に体当たりとも言える抱擁を受け、理久は真後ろに倒れこみそうになったが寸でで背中を日吉が支えてくれた。
すると鳳は理久の後ろの日吉までも抱き込む。サンドイッチ状態の理久は窒息死寸前だ。
自分と同様に苦し気な日吉の声が耳元で聞こえた。