拾肆

「おい猫宮」
「うわビックリした!!はい」

友達がいない理久のお昼休みは基本的に地味だ。
自分の席で弁当を食べたら適当に校内散策。ご飯を食べると眠くなりがちだが、そこで寝てしまうと絶対起きれない。だから理久はぷらぷらと校内を歩き回るのだ。
あと校内の浮遊霊から情報収集。これが大変役に立つのだ。
だがしかし今日はやけに眠くて人が近づいていたことに気付かなかった。そんなことあるのか。
ぷらぷらと校内を歩き回る理久に声をかけたのはキングこと跡部だった。

「ジローを知らねえか?」

何故私に聞くのだと理久は内心呆れたが、まあ手っ取り早いのかもしれない。
理久はそっと目を閉じて神経を集中させた。


「あー……中庭の木の裏で寝てますね。一番太い木の」
「…あそこか。分かった、ありがとよ」
「いえ」

話は終わった。はず。なのに跡部は動かない。さすがに惚れはしないけどその綺麗な顔で見つめられると勿体ない気がしてならない。

「お前、」
「はい」
「……何か嫌がらせ、受けてねぇか?」

その言葉に理久は目を見開いた。

「まあそこそこ受けてますけど、何か見たんですか?」
「よくケロッとしてんなお前」
「だって全然堪えてないし何なら倍返ししてますもーん」

語尾にハートを付ける勢いで茶目っ気づいてみる。
マネージャーになった次の日から普通に嫌がらせは受けていた。同じクラスの人間ではないのでそれはある意味救いだった。
霊感というチート能力を持つ私に嫌がらせは無意味だ。
直接的に仕返しをしなくとも、この特別な能力を駆使してしっかりやり返している。そのおかげか、理久に何かをすると呪われるなどという噂が出回っていて理久は内心高笑いをした。
そしてその噂話をどこからか聞きつけた日吉に根掘り葉掘り聞かれた。本当面倒くさいあいつ。

「逞しいなお前は…」
「はははどうも」

跡部は小さく溜息を吐いて、少し呆れたように微笑んだ。後光でも差してんのかってくらい眩しい。

「じゃあお前の心配はしないが。松本と加藤のこと、少し気にかけてやってくれ」
「…二人も?」
「ああ。加藤のほうはお前と同じようにやり返す質だからそこまで酷くねえが……問題は松本だ。あいつは基本的に内に溜め込む癖がある……なかなか気付きにくいんだ」

そう言って跡部は目を伏せる。
理久は人の感情には人一倍敏感で、普通の人間が感じ取れない部分まで読み取ってしまう。そんなことをしてしまえば気味悪がられるのは充分分かっていたので、普段はその感覚を鈍いくらいにまで低めていた。
加藤も松本も、理久に過保護かと言う程に構ってくる。それは理久にとって恥ずかしくも嬉しいことで、テニス部メンバーよりも大切な存在になっていた。

「分かりました、少し注意してみます」
「頼んだぞ。………あと」
「はい?」
「お前も、何かあったらちゃんと頼れよ」

わしわしと頭を撫でられた。跡部ならもう少し可憐に撫でてくれるものじゃないのかと内心首を傾げたが、まああの跡部に頭を撫でられるというレア体験をしっかり噛み締めた。トリップ万歳かよ。

「にしても……」
「うわ跡部さんちっか」

トリップ万歳と内心ほくそ笑んでいれば目の前に跡部の顔があった。ちっか。こっわ。
何が何だか分からず理久も跡部を見つめ返す。少し目が泳いでいる自覚はあるが仕方ないだろう。

「この俺様と話してんだ、少しくらい女らしい反応が欲しいもんだな」
「いやこれでも緊張してるんですよ!」
「………」
「やだすごい訝し気な顔……そんな表情も素敵ですね」
「物凄い腹が立つ」
「痛い!!」

何故かデコピンされた。