拾伍

「つーか」
「何」
「異世界とかの話の続きまだ終わってなくないか」
「何それ、日吉誰との会話を持ち出してんの?ついにボケ始めたか?」
「は?」
「いったい!!!」

手に持っていた部誌で思い切り頭を叩かれた。見事にバコンという爽快な音が響いた。頭飛んでいったらどうしてくれんだ。

「その話するためにちんたらちんたら部誌書いてたのかお前は」
「まあな」
「誰もいない部室で私に何する気よ!」
「面倒くさい」
「いってぇ!!!」

今度は部誌の背表紙で叩かれた。背表紙って。鈍器並みじゃねえか。

「鳳が」
「あ?」
「お守り貰ってから変なことが起こらなくなったって喜んでたぞ」
「あら〜それは良かった」

鳳には数珠の実を使った小さなお守りを渡した。強すぎず弱すぎずの守りを込めるのはなかなかに難しかったが、今のところ上手く作用しているらしい。

「お前は異世界から来たのか?」
「そうそう〜日吉が………ってなーんちゃってそんな手に乗るか」
「隠さなくてもいいだろ」
「隠す隠さないとかじゃなくてさ、もしも「はいそうです」って言ったとして日吉は信じるの?」
「信じる」
「馬鹿なの?」
「あ?」
「待て!そうやって部誌を構えるんじゃない!それは文字を書き込むものであって断じて鈍器のように扱ってはいけない!」

顔に一切の表情はないが今にも振り下ろしそうに部誌を構えている日吉が普通に怖い。

「現時点で特異な能力持ってるお前から、今更何聞いても驚かない」
「まあむしろ大好きだもんねそういうこと」
「分かってんじゃねえか。で、本当のところどうなんだ?」

部誌を静かに机に置き、頬杖をついてこちらをじっと見つめてくる日吉に理久はどうしようかと押し黙る。
もはやそれが答えだとは思うが、日吉は理久の言葉を待っていた。

「私本当は今頃社会人やってるはずだったんだよね」
「………え」
「明日から新社会人だという時に、気が付けばテーブルに知らん手紙が置いてあって、中見てみれば当選通知みたいなやつで。新社会人対象大規模トリップ抽選に当選しましたとかなんとか書いてあって、気が付いたらこっちの世界に居た」
「……」
「私中身中学生じゃないわけよ」

もう驚かないなどと言っていた日吉だったが、理久の言葉に額を押さえて難しそうな顔をしていた。

「いいか日吉、本当は君より年上なわけなんだよ私は。だから敬語使えや」
「ちょっと整理するか」
「痛い!!!」

先程鈍器のように扱うなと注意した部誌の背表紙が脳天に振り落とされた。だめだって言ってんじゃんそれ。

「証明できるものはあるのか?」
「今それ言う!?信じるとか言っておきながら!?いや分かるけど!」

確かにな!嘘吐いてる可能性もあるからな!でも今言うか!それを!
テニスの王子様という漫画の話をすれば一発だとは思うけど、それは絶対言いたくない。面倒くさい。

「証明するものは何もありません。困ったね日吉!私帰るわ」

そう言って鞄を持ちドアへ向かおうとする理久の襟を日吉が掴んだ。

「ん゛ッ!!?」
「待て馬鹿」

掴んだ襟を引っ張りそのまま理久も椅子に座らせる。一瞬で喉を締め付けられた理久はゲホゲホと咳き込んでいた。

「別に信じないわけじゃない。証明するものがあれば確かだなと思っただけだ。ちゃんと信じてるよ」
「……別に信じる信じないはどうでもいいんだけどね。自分だけが分かってればいいし」

皮肉でも何でもない。誰かに何かを理解してもらうことはとても難しいことで、とてもリスキーだ。
そんな、危険を冒してまで自分を理解してもらいたいとは微塵も思っていない。ここらへんの話は、自分だけが分かっていればいいだけだ。

「お前……」

ふと、日吉が切なそうに目を細める。

「そんなんだから友達出来ないんだぞ」
「あー!!!!腹立つお前ー!!!!!」

日吉はどこまでも日吉だった。