アプリコットの花

ずっと好きだった日吉と付き合うことができた。
まさか告白してOKを貰えるとは思わず、あの時は自分の幻聴か何かかと思ったくらいだ。
特別仲が良かったわけではないが、よく話すほうではあったと思う。
日吉の冷たさにビビりつつも少しずつ話しかけていった成果なのだろうか、本当のことは分からない。
今までだってたくさんの人に告白されているにも関わらず、全てを断ってきた男だ。そんな彼が自分の告白を受け、了承してくれるなんて想像できただろうか?
いつまでも思いを抱えていることに疲れて玉砕されるために告白をしたというのに。
驚愕である。

隣を歩く彼を横目で盗み見る。
部活のない日はこうして一緒に帰っているが、未だに緊張はする。
というか自分のどこが良かったのかを早く聞いてスッキリしてしまいたいのに勇気が出ずモヤモヤは募るばかりだ。

「どうした?」
「え」
「眉間に皺寄ってるぞ」
「……あ〜マジか…」

指摘され、理久は人差し指で自分の眉間をぐりぐりと押した。
考え事に熱中し過ぎるとどうしても眉間に皺を寄せてしまう。よくありがちな癖ではないだろうか。

「…何か悩み事か?」

心配してくれているのだろうか。
隣の彼を見上げるも、その表情からは感情を読み取ることはできない。

「ちょっとね」

付き合ったからといって特別恋人らしいことはしていない。したくないわけではないが、こういう関係性もありかとも思う。…というか、日吉といちゃこらしているイメージがミジンコ程も湧かない。
そもそも日吉にそういった浮ついたイメージがないからだろう。
愛情表現とかあまり無さそう……それはそれで淡泊でいいのかもしれない。寂しいのは最初だけで、慣れていけば長く関係を続けられる気がする。
むしろあれか?私にそういう……色気的なものが足りないのか?

「おい」
「っだ!」

眉間に鈍い衝撃を受けた。
驚いて咄嗟に額を覆うように片手を当てて前を向くと、少し不機嫌そうな日吉の顔があった。
やべーなんか怒ってる。

「俺に言えないことか?」
「えっ、あー、いや、個人的なことだし…」
「言えないのか」
「言えないというか、言うのは恥ずかしいというか…」

すすす、と理久は視線を逸らす。あなたのことを考えてましたなんて言えるか?言える奴は勇者として崇めたい。
急に黙りこくった理久を見て、日吉が理久の手を引く。
連れてこられた先は、全く人気のない静かな裏道だった。
リンチでしょうか。

「……えーっと、あの、え?」
「言ってみろ」
「………ええ…いやちょっと……」

再び視線が泳ぐ。外で、しかも本人相手に言えと。ここはどこの地獄だ。
手はがっちり握られてしまっていて逃げることができない。
聞くなら今しかないのか、そうなのか。

「……ただのね、純粋な疑問なんだけど…」
「ん」
「日吉くんてたくさんの人に告白されてるじゃん…でも全部断ってきたじゃん……私がOK貰えた理由って何だったのかなって……」
「馬鹿かお前。好きだからだろ」
「いやまあそれは分かるよ!どっ…どこを好きになれたというの!?」

こうなったら自棄だ。納得するまで聞いてやる。

「特別可愛いわけでも綺麗なわけでもないって自覚はしてるし!私ってなんかこう……色気…魅力!?足りなくない!?分かってる!?」

勢い付けて思いをぶちまけると、日吉は一瞬驚いた顔をするもいつもの冷ややかな表情に戻った。
と思ったのも束の間、その冷ややかさは影を潜める。
鋭い目元がさらに鋭く、纏うオーラはたじろいでしまうほどに雄々しい。

「別に、お前に色気だの魅力があったから単純に好きになったわけじゃない」
「傷ついたー!」
「うるせぇ真面目に聞け。で?お前に色気やら魅力があったとしたらもう少し恋人らしいことができるんじゃないかってことか?」
「いやなんか違う!私が望んでるわけではなく!…いや、それは考えたけど別に願望ではなくて……いやいや私何言ってんだ…」

自己嫌悪。
もう何が何だか分からなくなってきてしまった。日吉は少しストレートにものを言い過ぎるんだ。乙女心を学んでいただきたい。

「色気も魅力も必要ないだろ」
「は……」

ぽつり、日吉の低い声が降ってきた。
思わず見上げてしまうと、そこらの女性よりも美しく妖艶に笑う日吉と目が合った。

「お前自身で、俺を、その気にさせてみろ」

あまりのかっこよさに、目の前がぐるぐるして、無理と呟くことしかできなかった。
これは何という無理ゲーですか。


日吉若に、人気のない裏通りで、その気にさせて?と艶やかに誘われる