魔女は語る

とりあえず屋上へ出て、お互い自己紹介をした。
人のこと追っかけてきたのが仁王先輩、赤い彼は丸井先輩、髪がうねってんのは切原先輩、さっきから悩まし気な表情で見守っているのがジャッカル先輩らしい。
切原先輩だけ二年生だそうで。

「猫宮理久です、一年です。あと仁王先輩いい加減離れてほしい」

屋上の端に寄って地べたに座っている私達だったが、私だけ何故か胡坐をかいた仁王先輩の脚の間に収まっている。両腕を腹に回されぴったりと背後にくっついていて、今の私はとても酷い顔をしているだろう。

「日差しが眩しい…」
「先輩私の声届いてますか?」

聞いているようだが聞き流されているようだ。解せぬ。

「じゃあこうしましょう」

右手の人差し指を立て、空中をスイ、と切る。
途端に太陽の日差しが遮られ、私達が居る場所には影ができた。
私達を囲むように周囲には半透明の四角い箱ができ、地面にはきっちり四角い影ができていた。半透明だが完全に日差しを遮断してくれている。……他に生徒は居ないからいいでしょう。
そして仁王先輩に離れてもらうため、その四角い箱の中の温度を調節した。

「うわなんか涼しくなった…」

目を見開いて信じられないとでも言いたげな切原先輩にドヤ顔をして、仁王先輩の腕が弱まったのでするりと抜け出し隣に座った。

「私北海道から来たんですけどこっちの暑さ酷すぎじゃないですか?言葉通り地獄ですよ地獄。何でみんな生きてんの?屈強かよ…」
「もう慣れだよ慣れ」
「私夏始まった時干からびるかと思った…」

私の言葉に丸井先輩がけらけらと笑った。この四人めちゃくちゃ顔がいい。さぞモテるのだろうな。

「つーか魔女って何なの?」
「何なのと言われても…魔女です」

改めて丸井先輩が尋ねてくる。
再度理解してもらうために、両手のひらを上に向ければ、その手のひらに透明な球体ができて水が溜まっていく。水面を大きく揺らしながら水かさは増えていき、満杯になったところでその球体は霧となって弾けた。
肌に霧が当たり程よく涼しい。この箱から出ればすぐ乾く程度の湿り気だ。

「すげえ……なあこのジュース冷やせるか?」

切原先輩が手に持っていたペットボトルをこちらに向ける。それはしっかりと常温になった炭酸のジュースだ。絶対まずい。
差し出されたペットボトルを受け取って、手にほんの少し神経を集中させる。
パキパキと小さな音を立て、ペットボトルの表面に霜が降りていた。

「中は凍ってないから大丈夫ですよ」

そう言って切原先輩へ返すと、呆けた顔をしながらしっかりと冷えたジュースを凝視した。

「何だこの便利人間……いや魔女か…」
「魔法すごいでしょ!?ねえすごいでしょ先輩達!!ねえ!!私小さい時から地元の友達に私魔女なんだよって何回も言ってるのに信じてもらえなくて中二病扱いされて!すげえ適当にあしらわれてきたの!しかも極めつけがあだ名『魔女』だからね!?うわああああんこれ以上の屈辱なんてあるか!!」

わああああああと地面に突っ伏して泣いた。思い出したら悔しさと悲しさが溢れた。ちくしょう覚えとれ友人達よ……!!!

「いやまあ普通信じれねーだろぃ……俺だって未だに夢かと思ってるっつーの」
「その友達たちの前で魔法使ったことあんのか?」

ジャッカル先輩が私を宥めながら優しく問いかける。

「それがあああああ使おうとしても見向きもしてくれなくてぇえええええ!!」

そう言えばジャッカル先輩はoh…という顔をした。
何度だって魔法を使おうとした。使おうとするたびに皆に声をかけていたが「あーはいはい」と言いながら最終的には見向きもされなくなった。
だが別に冷たい友達たちというわけではなく、普段は普通に仲が良い。

「なんかもう、ドンマイとしか言いようがねえな…」
「うわあああああああああん!!!!」

切原先輩が可哀想な目を向けて、先程私が冷やしてやったジュースを飲むかと差し出してきた。

いらないよおおおおおおおおおおおお!!!!