魔女は褒められる

「んでもよ」

残り少ない昼休みを涼しい場所で談笑しながら過ごす。この暑すぎる季節には大変贅沢な時間だろう。
そんな贅沢な時間を過ごしながら、丸井がふと思ったことを口にした。

「猫宮が魔女っつーのは、あまり周囲に言わねーほうがいいぜ」
「えー……こんなに便利なのに…何故……」
「便利だからだよ」

理久の返しに、丸井は呆れたように笑った。

「そんな便利な奴、変な人間に悪用されたらどーすんだ」
「実力行使」
「やめろ死人が出る」
「何かあれば記憶消せばいいし…」
「もしそうだとしても、不測の事態が起きたらどうする?それこそ魔法じゃどうしようもなかったり」
「そんなことあるんすかねぇ」
「もしもの話。だから、何か起こってからよりだったら、起こらないようにしときゃいいだろ」
「ちぇー」

子供のようにあからさまに拗ねて見せる理久に、丸井を始め切原もジャッカルも苦笑いだ。仁王は寝転がってこの一時の涼しさを堪能している。

「あ、でも部長達には会わせたいっスね」

思い出したように切原がそう言う。

「部長?先輩達の部活の部長?」
「そー。俺らテニス部なんだよ」
「あっ…あーーーーーーあの話題に事欠かないテニス部……」
「どういう話題だよ…」

目を細め少しびびったような切原に、猫宮は冷たい視線を送った。

「毎時間毎時間!休みのたびに女子の話題はテニス部で持ち切り!誰がかっこいいだの挨拶しちゃっただの目が合っただのと!ちくしょう!こっちは友達一人作るのにアップアップしてんのにどこの誰だか知らねえ野郎共の話されてんじゃ会話に混ざれるわけがねえ!!っていつも思ってたその話題の彼らはあなた達でしたか敵じゃん」
「「「いやいやいやいやいや」」」

丸井切原ジャッカルの声が見事にハモる。寝ていた仁王からは小さく噴き出した声が聞こえた。

「そういや丸井先輩が〜とか言ってたわ…」
「女子が勝手に話してるだけだろーが!俺ら関係ねーわ!」

くわッと顔に力を込め怒鳴る丸井に、周りの二人はそーだそーだと同調した。

「そうだけど……そうだけど…ッ!!一時はテニス部を調べて会話に入ろうかと思ったけど!!男ダシにして会話に混ざるとかどんな屈辱…!!それもこれも話題をかっさらっていくテニス部が悪い……!!!ってなってもうその後は無限負のループ」

だめだこいつ、とでも言わんばかりに三人は重い溜息を吐いた。
それと同時に予鈴が鳴る。寝ている仁王を除いた四人は、お、と鐘が響き渡る空を見上げた。

「ま、今日から俺ら友達な!後で部長達紹介すっから!」

人懐っこい笑顔を浮かべた切原が理久に向けて手を伸ばす。切原が放った「友達」という言葉に、理久は一瞬呆けた後キラキラと満面の笑みを浮かべて飛びつくように差し出された手を握った。
その勢いに切原は少しのけ反り、嬉しそうな理久を見てどこかむず痒い気持ちになる。
二人の様子を見ていた丸井とジャッカルは、微笑ましい表情を浮かべながら(犬……?)と全く同じことを思い浮かべていた。

「じゃあこの空間解除しますから。体に負担はかからないように、皆さんについてる冷気は徐々に無くなっていくようにしてるので」
「涼しいだけでいつも以上に休めたな。ありがとな猫宮」

ジャッカルにわしわしと頭を撫でられ、ドヤ顔をしながら破顔するという器用なことをやってのける。
今度こそ丸井の目には、理久に犬の耳と尻尾が見えたようだった。