魔女は危機を回避する

五限目の終わりを告げる鐘が鳴る。
眠気に耐えながらよく頑張ったものだと自分で自分を褒めた。
ぐっと背伸びをしながら少し体を後ろに反ると、背中の骨がポキポキと軽快に鳴った。

休み時間になると、私の教室は他クラスの生徒のおかげでやけに賑わう。
それには理由があった。
自分は魔法で温度調節をしているため暑さとは無縁だが、クラスの皆はそうではない。窓を全開にしてもそこから入ってくるのは温風と言ってもいいような温い風。
どれだけ吹き込んでこようとも風自体温いので、涼しくなるどころか暑さが増す一方だった。
いやもう可哀想になった。先生達は職員室で扇風機かけてるしいいよなと皆は口々に言っていた。

だからちょっと、吹き込んでくる風に魔法をかけた。
突然教室自体を冷やしてしまうとおかしなことになってしまうので、窓から吹き込む風は教室に入った瞬間冷却され冷たい風に変わるようにしてみた。
そしてその冷たい風が効率よく教室を冷やしてくれながら、自然に教室内に留まるようにしたのだ。
除湿機能も忘れちゃいない。
おかげでこのクラスは大変快適な毎日を送っているのだ。それに気づいた他クラスの生徒が毎時間毎時間この教室へくるもんだからとても騒ぎになっている。
何故涼しいのか、先生達も首を傾げているが分かるはずもない。

魔法万歳である。

ひっそりとドヤ顔をしながら次の授業の準備をしていると、廊下が一層騒がしくなった。
なんだろうな〜なんて考えながらも興味は無いので机の中を漁っていると、誰かに呼ばれた。

「猫宮さん!」
「ん?」

呼ばれた方を見てみると、何やら顔を赤くしてキャッキャする女子数人と、その奥でヒラヒラと手をこまねいている人物が居た。

「よっ、さっきぶり」

彼、丸井先輩だ。
首を傾げながら近寄ると、何故か唐突に頭をわしゃわしゃと撫でられる。

「駄犬っぽい」
「何の話ですか」
「なあちょっと頼みあんだけど」
「どうしました?」

そう問いかければ、丸井先輩は周囲を気にしてキョロキョロとしている。
私は何となく察して、ああと声を漏らす。そして拍手をするように、一度手を打った。

「大丈夫ですよ、喋っても」
「いやでも周りが…………周り………止まってる…」
「時間止めたので、大丈夫です」
「……駄犬のくせになんて利口な…」
「何の話ですかってオイ」

駄犬というのは私のことか?どういう意味だそれは。

「いやー……仁王が死にそうでさ。どうにかなんねーかなって」
「…あ、もう魔法切れたんですね」
「そー。さっきさあ…」

丸井先輩は、申し訳なさそうな顔をしながら先程あったことを話し始めた。

同じクラスの仁王先輩とは席が隣同士らしい。
徐々に魔法が薄れていくにつれて、仁王先輩が萎れてきたそうだ。
五限目が終わる鐘が鳴ったと同時に、仁王先輩は勢いよく立ち上がったらしい。

「おい仁王、どうした?」
「あっつい」
「いやそれは分かんだけどよ、どこ行く気だ?」
「……プリッ」
「お前猫宮んとこ行く気じゃねーよな…!?馬鹿やめろ抱き付く気か!?あいつの教室でんなことしてみろ猫宮が可哀想だわ!」
「…まーなんとかなるなる」
「なんねーよ!おいちょっ、待て待て待ておまっ力つえーなこんな時ばっか!待て!俺が行ってくっから大人しくしとけ!」

制止する丸井を振り切らんばかりに歩を進める仁王をなんとか押し留めて、遠い遠い一年の教室まで丸井は走った。

「ってわけだ」
「うわあ丸井先輩が居てよかったあああああ」
「だろぃ……部活前なのに無駄な体力使った…」
「oh…」
「でさ、何かねーかな。このままだとお前のこと誘拐しそうだぞあいつ」
「うーん……どうしようかな………あ、今日はこれでいいか」

悩みながらポケットを漁ってみると、飴玉が二つ入っていた。それを取り出して手のひらに並べる。
すると飴玉の下に小さな魔法陣が浮かび、すぐに消えた。

「…何したんだ?」
「この飴に付与をちょっと」
「付与。まさにファンタジー」
「これ舐めれば、今日をずっと涼しいままですよ。舐め切っても」
「マジか…」
「とりあえず今日はこれで我慢してもらって、明日代替品持ってきます」

二つの飴を、丸井先輩の手に渡す。

「お二人で食べてください」
「え、俺もいいのか」
「今日一番の功労者は丸井先輩のような気がするので」
「本当あいつどうにかしてくれ……」

丸井先輩は項垂れて、私の肩に凭れた。ああ、日頃苦労しているんだなと理解して、彼の背中を優しく叩いた。