12

暗い空から大粒の雨が絶え間なく降り注ぐ。
本格的に梅雨が始まり、どこか空気は鬱々としていた。
先日の席替えにより窓際列中間へと席を移した理久は、頬杖をつき雨が降りしきる窓の外を眺めていた。
めぐるはトイレに行っているので一人静かに休み時間を過ごしている。

「猫宮さん」

ふと誰かに呼ばれる。
理久は窓から視線を外し振り返ると、同じクラスの佐藤かなと宮本ユリカがこちらを見下ろしていた。

「佐藤さんと宮本さんだ。どうしたの?」

そう聞くと、佐藤は僅かに顔を赤らめ、そんな彼女を宮本がつっつく。傍から見たら何だこの状況は。

「あのね、猫宮さんにお願いがあって……日吉くんと仲良いよね…?」

仲が良いか悪いかで言ったらどちらでもないと思う。

「悪いわけではないだろうけど普通だよ」
「……あの、その…」

理久は感づいた。
きっと佐藤は日吉が好きなのだろう。日吉との橋渡しを自分に頼みたいのだ。

「あー…ごめん、私と日吉くんって、連絡先を知らない程度の仲でさ…」
「そうなの…?」

あからさまに肩を落とす佐藤に理久は大変申し訳なくなってしまう。
きっと今の自分が橋渡しをしたところで事態は好転するどころか悪化するだけではないだろうか。

「あ、待って、多分猫宮さん勘違いしてるわ」
「え」

試合終了な雰囲気を醸し出していた佐藤と理久にストップをかけたのは宮本だ。

「あのね……、かなが男テニに好きな人がいるんだけど、その人の連絡先を日吉くんに教えてもらえないか聞いてほしいんだよ。他にテニス部の知り合い居なくて…」
「それならめぐるに聞いたらいいんじゃないかな?女テニだし…」
「……めぐるはポーカーフェイスが大変下手くそで、下手に教えるととんでもないことになる」

宮本はスッと遠くを見つめる。昔何かあったのだろうか。

「猫宮さんなら上手くやってくれるのではないかと思って…!お願い!どうにか騒ぎ立てず彼の連絡先をゲットしてほしい!」

顔の前で手を合わせる宮本の横で、佐藤がお願いしますと小さな声で呟いた。
恋する乙女は本当に可愛いものだと理久は心がきゅんとした。

「とりあえず聞いてみるけど、あまり期待はしないでね。ちなみにだけど日吉くんにはバレてもいいの?」
「大丈夫、日吉くんって言いふらしたりするような人じゃないと思うから…」
「そうだね。じゃあ昼休みにでも聞いてみるよ」
「ありがとう」

佐藤は嬉しそうに頬を赤らめお礼を呟いた。


その日の昼休み、理久は教室を出て行こうとする日吉を引き留めた。

「日吉くん」
「……、どうした?」
「ご飯食べた後時間ある?」
「まあ一応」
「ちょっと頼みがあってさ、話できる?」
「ああ」
「じゃあご飯食べ終わったら屋上に出る階段に来てほしい」
「分かった」

日吉は不思議そうな顔をしていたが、その場でそれ以上突っ込んではこなかった。こういうところが彼の良いところだろう。
日吉との約束に遅れないためにも、早くお弁当を食べてしまおうと理久はめぐるの待つ席へと向かった。