13

外は雨だ。
そんな日に屋上へ出る阿呆はいない。よって必然的に屋上へ出るための階段は普段にも増して人影が少ないのである。
理久は薄暗い階段の隅に小さく座り込み、ぽちぽちとスマホを弄っていた。

「………猫宮」
「わざわざごめんねー……どしたの」

日吉が階段を登ってくる途中でぴたりと止まり、顔を下に逸らす。

「お前、仮にも女子なんだからスカート気をつけろよ」
「大丈夫だよー!スパッツ穿いてるもん、ほら」
「見せんな!」

初々しい反応を見せる日吉に理久はけらけらと笑いぺらりとスカートを捲ると、急いで登ってきた日吉に思い切り頭を叩かれた。最近容赦がないような気がする。

「で、話って何だ」

少し耳を赤らめた日吉が理久の隣に腰を下ろした。

「テニス部のさ、松永くんって分かる?」
「分かる」
「んーとさ…」

かくかくしかじかと日吉に経緯を話す。

「面倒くさい」
「言うと思った」
「自分で聞きに行けばいいだろう」
「それができないからこうして頼んでるんだよぅ」
「立花に聞け」
「めぐるに頼むと大変なことになるらしいからって私に来た」
「……まあ分からなくもない」

すっ…と日吉は遠くを見つめる。
薄々感じてはいたがめぐるは所謂トラブルメーカー的存在なのだろうか。

「日吉くん」
「……」
「私、遊園地でひたすら笑われたこと忘れてないからね」
「………悪かったって言っただろ」
「許すとは言っていない」
「………はぁ…分かった。じゃあ俺にお前の連絡先を教えろ、聞いたら送るから佐藤に転送してやれ」
「ありがと〜!!」

日吉がスマホを向けてくるので理久も自分のスマホを取り出しお互いLINEアカウントを交換する。

「あ、こないだ告られてたでしょ、日吉くん」

理久はスマホを弄りながら、そういえばと切り出す。あの日も今日のように雨の日だった。

「覗きは趣味悪いぞ」
「たまたまだって」

冷ややかな日吉の視線に理久は苦笑する。本当にたまたまなのだ。たまたま、彼の背中が見えたので覗いて見ると告白現場だっただけだ。

「彼女とかいらない感じ?」
「いらないというか、今はテニスを一番に考えたいだけだよ」
「夢中になれるものがあるっていいな」
「お前は何かないのか」
「波風立たない生活がしていければ充分なんだよね」
「枯れてんのか?」
「失礼だな」

真剣な顔で言う日吉を理久はひと睨みした。

****

夜、理久が風呂から上がるとタイミングよくスマホが鳴った。
ディスプレイを見てみると日吉からで、松永の連絡先を送ってくれたようだった。
理久は意気揚々とその松永の連絡先を佐藤へ転送し、頑張ってとの一言も添える。彼女の恋が上手くいくように祈りながら、日吉にお礼のメッセージを送った。

『松永に物凄く意外がられた』

理久は素直に笑ってしまった。恋の橋渡しとか一切興味なさそうな日吉に連絡先を教えていいかと頼まれたのだ、きっと松永は稲妻のような衝撃が走っただろう。

『あと』
「?」
『切原が、LINE無視すんなってキレてる』
「スタンプ連投されてキレたいのはこっちだって言っといて」
『いや普通に切原に言ってくれ』