飴玉を二つ渡して、時間停止を解除する。
音一つ無かった空間から、いつもの喧騒とした空間へと戻った。
「なあ、連絡先交換しねぇ?」
丸井先輩はポケットからスマートフォンを取り出して、こちらに近づけてきた。
「やったー!学校の人の連絡先初ゲット」
「マジかよ……泣けるわ…」
「ホントですよねー…あれどうやるんでしたっけ、ここか?」
「違う違う、ちょっと貸せ」
やり方をど忘れした私に代わって丸井先輩が登録をしてくれる。大変手際が良かったので慣れるくらいに友達いるんだろうなと察した。イイナー
「は!?友達三人!?すっくな!!!てかこれ親二人と、誰だ!?」
「兄ちゃん!」
「家族オンリーじゃねーかよ!涙出てきた!」
「うっさいっすよ!!」
涙出てきたとか言いながら爆笑じゃないですか。笑いすぎて涙出てきてんでしょそれ。
「ま、何かあったら連絡してきなサイ」
またわしわしと頭を撫でてくる。私は犬じゃない……
「兄ちゃんが増えた気分だわー…」
「おういくらでも甘えろ。っと、そろそろ戻んねーとやべーな…じゃあこれサンキューな!」
「どいたまして〜」
眩しい笑顔を見せて、丸井先輩は走って行った。大丈夫かな、転ばないかな。まあ運動神経良さそうだから大丈夫か!
さて教室へ入るか、と入口を向けばたくさんの視線。ええええ何こわ
授業が始まるまで質問のオンパレードだった。女子から。
丸井先輩とどういう関係だとか、いつ知り合ったとか、何であんなに仲良さげなのかとか。全員目がぎらついていて、嫉妬と羨望の色が窺えた。女子怖い。男絡むと女子怖い。
授業が始まったおかげですぐ解放されたが、きっとこれだけでは終わらないんだろうなぁ…テニス部の人気半端ねーな……
次の日、時間に余裕を持ちながら出たはずなのに割とギリギリに学校へ着く。まあこれ毎日なんですけどね。
何でだろうなぁ、別に寄り道してるわけじゃないのに何故時間は無くなってしまうのか。不思議だ。
一人首を傾げながら玄関で靴を履き替え校舎へ入ると、仁王先輩と丸井先輩が居た。
「待ち伏せっすか…」
「待っとったぜよ」
仁王先輩はにやりと笑って、軽く腕を広げてくる。やめろ何する気だ。
「その広げた腕を元に戻して、手出してください」
「ん」
「はっや」
即座に差し出された手に、昨晩作った物を乗せた。
「………髪ゴム…?」
それは、角度によって青や紫に見える不思議な髪ゴムだった。わずかにキラキラと光っている。
「これ着けておけば勝手に外気温に合わせて温度調節してくれますから。外した時は徐々に効果が切れていきますけど、付け直せばまた同じように調節してくれます」
ここはこっそりと、小さな声で告げる。大変周りの視線が痛いが多分聞こえてはいないだろう。
「便利じゃのう…」
「これちょっと、あれイメージしてみたんですけど」
「あれって何だよ」
キラキラと光る髪ゴムを覗きながら、丸井先輩が首を傾げる。
「千と千〇の神〇しのほら、ね、ね、それっぽいでしょ、あのセリフ言いながらつけてみてくださいよ仁王先輩」
そう言っている間にもう着けてしまったらしい。おい制作者の望み一つくらい聞いてくれてもいいでしょうよ。あのシーンめっちゃ好きなのに!
そんな私を見て丸井先輩は「馬鹿だな…」と呟いて人の頭を撫でてきた。その気の毒そうな顔やめてほしい……
「猫宮、手出しんしゃい」
「なんすか……」
期待はしない。溜息をついて手を出すと、先程まで仁王先輩が着けていた髪ゴムが手のひらに乗った。
「いやいやいやいらな!!」
「お前さんも髪結う時があるじゃろ。使いんしゃい」
「自分のあるんですけど!」
「今日からこれ使うように」
「えぇー……」
誰かにあげてしまおうかな、現に羨ましがってる子めっちゃいるしな…
「誰かにあげたらお仕置きな」
「何でバレてんのーーーー」
先輩達はケラケラと笑って、順番に私の頭をポンポンと叩き教室へ向かって行った。
残された私は、えげつない視線に耐えきれず魔法を使って気配を隠して教室へとダッシュした。