その日の昼休み、何故か別クラスの女子数名に呼び出されてしまった。
理由は大方分かっている。どうせテニス部関連だろう。
校舎の隅っこで、腕を組んで険しい顔をした女子数人に睨まれている。私は重い溜息をついた。
北海道に居た時、その時は私ではなかったが、同年代の女子が同じ目に遭っていたのを見たことがある。
その子は大層可愛い子で、その子にその気が無くとも周りの男子がほっとかなかったのだ。今私の目の前に居る彼女達のような顔をした女の子達に囲まれ、いつも怯えていた。
助けようにも、私より先に他の男子が助けに入ってしまうので私が入り込む余地がなかった。
私は再度重い溜息をつく。
あー、面倒くさい……私は女の子と対立したいわけじゃない…仲良くしたいのに……別に魔法を駆使すればどうにでもなる。けど、私としては魔法は日常生活に使いたいのであって、対人にはあまり使いたくない。だって無駄じゃない?人間なんて数多居てその数だけ色んな人がいる。
それ相手に毎度魔法使ってちゃあ、色々と無駄だよね。
「ねえ、丸井先輩とどういう関係?あと今朝仁王先輩とも話してたって言うじゃん。なんなの?」
苛立たし気に刺々しい言葉を吐く彼女を見やれば、眉間に深く皺を刻み込みこちらを見下している。
ちくしょうもうちょっと身長あったらな…なんて場違いなことを考えていれば、反応のない私にキレた彼女に肩を乱暴に押された。
「何で何も言わないわけ!?」
「ただの先輩後輩だよ…たまたま……その、知り合って、私友達居なくて、情けかけてくれたんだと思う」
「友達いないの?かわいそ!そりゃあ優しい先輩達だもんね!じゃあ友達がいれば先輩達から離れるの?だったらあたし達と友達になろうか」
にやりと気味の悪い笑みを浮かべ、いい案でしょうとでも言いたげに鼻を鳴らした。
正直遠慮したい。私が仲良くしたいのはあんたらとかけ離れた華やかな女の子達だ。決して女子一人を囲んで暴言を吐くような人達ではない。
「……いや、いいです。だったらまた一人に戻ればいいし」
先輩達とはもう関わらなくてもいい。一人で居たって困ることもない。
「それじゃだめ。あんたが一人になればまた先輩達が構いに来る可能性があるでしょ?そんなの認めない」
あーあーあー、恋する女の子面倒くさいー
絶対こんなことするような子を好きにはならないと思うよ、先輩達。大半がそうだと思うわ。
「極力接触しないようにするし、だから」
「いやいやそれは困るんだけど」
ふと、今この場に居るはずのない人の声がした。
ん?と顔を顰め、彼女達の後ろを見るべく少し背伸びをしてみた。
「せっかく教室行ったのに猫宮居ねーから探しちまったじゃねーかよぃ」
「おおふ……丸井先輩…」
「よう猫宮!部長達待ってっから早く行こうぜ!」
「切原先輩空気読んで…!」
現れたのは丸井先輩と切原先輩と、眠そうな仁王先輩だ。マジか仁王先輩も来たんか、意外。
彼らは、激しく動揺している女の子達の横を通り過ぎて私の目の前に立つ。なんだろう、妙にガラが悪くて私は彼らのほうが怖い。
丸井先輩がガムを膨らませながら私を見下す。
その目が何を言っているのか分からなくて、口を半開きにしながら首を傾げた。
「大丈夫か?」
パチンとガムが割れて、丸井先輩がそう問いかける。
「超面倒くさい…」
彼女達に聞こえないように、顔を顰めてそう言えば彼は噴き出した。
「わりーな俺らのせいで」
「いざとなったらどうにでもなるので、別に大丈夫ですよ」
「それはそれで悲しいな。少しは先輩を頼れよ」
「頼る先輩が問題なんですって〜」
「あ、そうか」
そういやそうだったと彼は笑って、くるりと体を回すと未だ動揺している彼女達と向き合った。
「こいつ大事な後輩だから、いじめんのやめてくれるか?」
「……い、いじめなんてそんな…ただ話をしていただけで…」
「ただ話してただけで、俺らと距離置くなんて話になるわけねーだろ。別に俺らがこいつと仲良くしたくて構ってるだけだ。文句あんなら俺らに言え」
私の位置からでは丸井先輩の表情は見えなかったが、彼女達の怯えた表情はよく見えた。切原先輩が小さな声でこえーと溢している。
彼女達はもう何も言えなくなり、ぱたぱたと走って逃げて行ってしまった。なんだか申し訳ないことしたなぁ
「よっし、じゃあ行こうぜぃ」
「先輩達よくここ分かりましたね」
「仁王がな、なんとなくこっちとか言って来てみたら辿り着いた」
ふと仁王先輩を見てみると、今朝渡した髪ゴムがきらりと光った。
……予想外に、仁王先輩と私の魔法は相性がいいのかもしれない。