「……あいつとはね、中3に上がった時に仲良くなったのよ。席が隣同士でね…。すごく喋りやすくて、取り繕わなくても自然と会話が弾むような、そんな仲だった。いつの間にか好きになってて、もしかしたらあっちも好きでいてくれてるんじゃないかって思って」
ぽつぽつと話す彼女は、自分の内側にある思い出をずっと奥から引っ張り出すように、噛み締めるように、大きくもない声を少し震わせている。
「…要はね、試しちゃったのよ、あいつの気持ちを。高校に入って、幸村くんと同じクラスになって。極々自然に幸村くんかっこいいよねって話したら、あいつ露骨に嫉妬したみたいで。それが物凄く嬉しくて、調子に乗っちゃった。事あるごとに幸村くんの話をしてあいつの反応を窺ってた。……そしたら、距離置かれるようになって…あたしが幸村くんのことを好きだって勘違いされて…。気付いたら、ただのクラスメイト同士になっちゃった」
壁に背を預け、膝を抱えて小さくうずくまる。
彼女は呆れたように笑いながら、鼻を啜った。
「馬鹿だよねホント。あたしが好きなのはあいつなのに。あいつの気持ちで遊んじゃった……もうあっちはあたしのこと嫌いだよ」
「どうでしょう。占い的には嫌いとは出てませんよ。というか多分まだあっちも先輩のこと気にしてますね……全然会話はしないんですか?」
「全然…時々目が合うけど、すぐ逸らしちゃうし…」
こじれにこじれて、今現在ってとこか。すごいな、恋ってすごい難しい。こんなこじれることあるの?
「先輩、まだ大丈夫。絶対大丈夫。諦めないでください」
「あんたに何が分かるのよ……もう絶望的なんだから…」
「それは先輩の思い込みですよぅ……まずは挨拶からしていきましょう。先輩気になる相手の目見て喋れないタイプでしょ?」
私がそう指摘すれば、彼女は肩を大きく揺らして固まった。図星か。
「とりあえず目見れないなら見れないでいいんです。まず大事なのは言葉ですよ。目を見れなくても、しっかり彼に対しておはようって言ってあげてください。もしも、何かしてもらった時はありがとう、と。当たり前ですけど、先輩みたいな状況だとなかなか難しいとは思うんですけど、言葉には魂がありますからね」
「……迷惑になるだけよ」
「挨拶が迷惑なんてあるか〜〜〜〜〜〜!彼は、先輩の声を待ってますよ。周りの誰かへ発している声じゃなく、自分一人に対するあなたの声を」
彼女はゆっくりと顔を上げ、少し疑いの眼差しでこちらを見ている。いやまあわかるけど、疑いたくなるのわかるけど!大丈夫なんだって!!
「好きなんでしょう、彼が」
「………好きよ」
"好き"という言葉に彼女は顔を赤らめたが、すぐにきりりとした表情をして肯定した。はー!乙女!ここに乙女がおる!
青春の幕開けよ!
「……あんた、何でそんなに親身になってくれるの。さっきまで嫌味言われてたくせに」
「先輩の弱味握って取り入ろうかと思って」
「えげつない…」
「でも思った以上にこじれまくってて恋って大変なんだなって勉強になりました!」
「人の複雑な事情で勉強しないでほしいわ」
私はわざとらしい笑顔を作って、すっとぼけるような仕草をした。そんな私を見て先輩は笑ってくれて、数分前の彼女の面影はない。高飛車のような空気を纏っていた彼女は既に居なくなり、ただ恋に苦しむ女の子がここには居るだけ。
「先輩、どんな些細なことでも言葉にしなければ何も伝わりませんよ。表情を読めなんて無茶な話です。一つの表情でも、見る人によって解釈は異なるんですから。勝手に思い込んで、勝手に考え込んではだめです。相手に直接確認するのが難しいのなら第三者に頼るのも手です。とにかく、先輩は一人で抱え込まないこと。おっけーですか?」
「……分かった。頑張る」
「いきなり実行しなくても大丈夫ですから。いけそうだなって時に少しずつ、言葉を交わしてみてください」
「…うん……あんた名前なんて言うの」
「猫宮理久です理久って呼んでほしい……先輩のお名前は?」
「蒼井奈々」
「奈々先輩ですね!!!」
「馴れ馴れしい」
「今更!?」
もうすでにめちゃくちゃ仲良くなっていた気だったのだが!?あれ!?あ!?私の思い込み!?思い込みって怖いな!!?!?
ショックを受け固まっていれば、奈々先輩は目の前で噴き出して涙を流しながら笑っていた。そこまで笑わなくてもよくないか。
奈々先輩が未だに笑うもんだから私は頬を膨らませ恨みがましい視線を奈々先輩に送り続けた。そしてそれを見た奈々先輩が再び噴き出すという無限ループである。許さん。
「はーすんごく元気出た」
「それはようござんしたね」
「むくれないでよ」
「むくれてません」
「睨んでるつもりだろうけど全然怖くないわよ、リスみたい」
「ちくしょーッ!!!!」
「……ありがとう、ちょっと頑張ってみる」
「応援してますちくしょーッ!!!」
「なんなのあんた(笑)」
そして自然な流れで連絡先を交換してしまった。初めての、初めての女の子の連絡先。私は先輩の連絡先を画面に表示して、高らかに掲げた。大袈裟な私を見て奈々先輩は呆れていたが、それくらい嬉しいのだから仕方ない。
今日は間違いなく最高で素敵な日である。