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その日は朝からやけに体が重く、倦怠感を抱えながら登校した。
首を触ってみればいつもよりほんのり熱い。
朝のうちに熱を測っておけばよかったと理久は後悔した。

熱を出すなんて久しぶりだ。
微熱程度だが、滅多に風邪を引かない人からしてみればその微熱すらも辛く感じるものではないだろうか。

「理久顔赤いよ…?もしかして熱ある?」

そんな理久を見ためぐるが心配そうに顔を覗き込んできた。

「多分……ダメそうになったら保健室行く」

理久がへらりと笑えばめぐるはより一層心配そうな表情をする。

「ダメそうならとかの前に行ったほうがいいよ…今から行かない?」
「いや〜とりあえず出来る限り授業は出たい…」

座っているだけでも妙に体がフラフラするが、どうにも保健室へ行くという決断ができない。行こうか、いやまだもうちょっと……という葛藤が渦巻いている。

「無理しないでよ…!?」
「だいじょーぶ」

****

気力の勝利なのか、理久は昼休みまで持ち堪えた。これなら午後までいけるのでは…?と思いながら冷たい水を求めめぐると一緒に自販機まで来ると、突如として限界はやってくる。
購入したペットボトルの水を受取口から取ろうと屈んだ瞬間、脚から力が抜けそのまま自販機に頭突きをしてしまったのだ。

「理久!?」
「………いたい…」
「すごい音した今!そりゃ痛いよ大丈夫!?」

額も痛いし体に力が入らない。
理久はそのままずるずると自販機に寄り掛かるようにしてその場にしゃがみ込んだ。

「…だる」
「もー!だから保健室行こうって言ったのに!今から行こ」
「待って……ちょっと気力溜めるわ…」

肩で息をしながら言葉通りに気力を溜める。無駄に広い学校だ、ここから保健室まで歩いていけるだろうか。

「立花じゃん、何やってんだお前」

頭上で聞いたことがあるような声がする。

「あああ!向日先輩!ナイス!ヘルプ!」
「はぁ?」
「理久が熱あって、動けなくなっちゃって」
「え、うわ、おい大丈夫か?」

理久の目の前で向日がしゃがみ込み、優しく声をかける。その言葉に理久は小さく「はい」と返事をした。

「大丈夫そうじゃねーな……おーい侑士!日吉呼んできてくれ!」

何故日吉だと理久は頭の中をハテナで満たす。

「俺らより日吉のほうが安心感あるだろ」
「あ、そうですね」

めぐるの納得したような言葉に最初理解が追い付かなかった。

「向日さん何ですか…って、何してんだ?」
「理久が熱出して動けなくなっちゃって…」
「日吉お前運んでやれ」
「いやいやいやいや」

思わず理久は声を上げてしまう。
だってそうだろう、今運ぶって言った?どうやって?肩貸してやれとかではなく?
咄嗟に顔を上げてしまいまた頭がくらくらとした。せっかく溜めた気力は霧散してしまう。
だがそうも言ってられない。

「大丈夫大丈夫、気力溜まったからいける……いける…!」

力が入らない脚に無理矢理力を入れ立ち上がればふらりと後ろに体が傾いた。もうこのまま気絶してしまいたい。
そんな理久の体を誰かが支えた。

「あっぶな……おい猫宮、いいから保健室行くぞ」
「…………ごめん…めぐるー肩貸して……」
「立花なら先に保健室行った」
「何故…!?」

先に!?何故だ!?
驚きを隠せないままめぐるが歩いて行ったであろう廊下を凝視していると日吉に呼ばれる。
気だるげに彼のほうを向けば、彼の手のひらが額に押し当てられた。

「………微熱以上だな」
「早く連れてってやれって」
「分かってますよ」

意識が朦朧としぼやける視界の中で日吉と向日が何か話している。何を話しているかすらもう分からず、次第に意識が遠のいてくる。
これはもしや結構な熱なのではないか、理久はどこか冷静に頭の隅でそう考えていた。

「猫宮、歩けるか?」
「はっ…大丈夫……ごめん腕掴まっていいかな…」
「ああ、ほら」

日吉が差し出してくれた手を掴もうと手を伸ばすもぐらぐらと揺れる視界のせいで日吉の手を掴み損ね、さらにはその勢いで日吉に正面からぶつかってしまった。今すぐ死にたいと理久は思う。

「日吉、歩かせんのは無理やと思うで」
「そうだぜ。抱えてってやれ」
「いや……ほんと…それは世間体的に日吉くんに申し訳ないので………ソリとかないですかね…」
「ねーよ」

理久の言葉に向日がけらけらと笑う。

「…猫宮、今だけ我慢してくれ」
「おああっ」

突然の浮遊感に目を見開けばすぐそこに日吉の顔。何か言おうとした理久に対して先手を打つように日吉が口を開く。

「大人しくしてろ」

有無を言わさぬその圧に、理久は頷くほかなかった。