魔女の心境

目の前の妙な景色に何とも言えない気持ちを抱えたまま味噌汁を啜る。
なんで私仁王先輩とご飯食べてんだろうなぁ……

「なんじゃそんなに見つめて」

にやりと口角を上げる仁王先輩はどこから見てもイケメンで腹が立つ。

「これ丸井先輩にバレたら怒られますよ」
「バレなきゃいい話」
「言わないでくださいね…」
「ん」

……不安だ。どっかでぽろっと喋っちゃいそうで不安だこの人。

「そう心配しなさんな、大丈夫じゃ」

私の視線に、何かを企んだような笑みではなく少し困ったような笑みを浮かべて頬杖をついた。見たことのない彼の表情に、一瞬呆けてしまう。

「わあ、仁王先輩もそういう顔するんですね。ちゃんと人間だった」
「俺を何だと」
「食えない人だなって」
「まあ間違ってはいないな」

いつものにやりとした笑みが戻り、頬杖をついたまま、ふふっと笑う。ああ、この笑顔に学校の女子達はやられるわけか。イケメンは得してんな!!!
晩御飯を食べ終えて、食器は魔法で自動的に洗われる。仁王先輩がいつ帰るかとか、もう期待はしていないので敢えて聞くことはない。
二人並んでテレビを見ながら、今やっているバラエティ番組やドラマの話で盛り上がった。

「猫宮、友達はできたか?」
「できてるように見えますか?絶望ですよ」
「作る気あるんか」
「もうねー諦めてますよ。むしろ一人に慣れてきたからこのままでいいかなって」
「早くも枯れたか…」
「余計なお世話です」

ちくしょうあんたは周りにたくさん人が居ていいよな!

「あの蒼井とか言うやつは、本当に大丈夫なんか」
「大丈夫ですよ。プライドが高くてきついように見えて、物凄く思いやりのある人ですから。すごくね、私のこと気にかけてくれるんですよね。何だかんだでちょくちょく連絡来るし、たまにお昼誘ってくれるし、買い物付き合いなさい!って言いながら一緒に買い物楽しんでくれるし。……そのせいで、奈々先輩、今まで一緒に居た女の子達と疎遠になったみたいなんですよねー…」

あの呼び出しの時に後ろに居た二人の女の子。きっとそこまで仲が良かったわけではないのだろうけど、それでも今奈々先輩はその二人と距離ができてしまい、彼女は一人になってしまったようだった。
きっと私がいらなく口出ししたせいなのだろうと、一度謝ったことがあった。一人にさせてしまって申し訳ないと。
しかし逆に叱られてしまった。お前が気にすることじゃないし、別に彼女達と仲良かったわけでもない。仲良くしたい女の子が他に居るわけでもないし、そもそもずっと好きだった彼と思いを通じ合わせることができて今が一番幸せなのだと。この幸せは他ならない私のおかげだと。
だから、今大好きな彼と、私が居てくれたらそれでいいと、言ってくれた。

「…そんなこと言われたら、猫宮がそいつを慕うのも無理はないか」
「しかも本当平然と、当たり前でしょ?って具合に言ってのけたんですよ。かっこよすぎるでしょ奈々先輩」

あの時はボロ泣きしました。何泣いてんのよって物凄く怪訝な顔で見られたけど、嬉しくて仕方なかったんだよ。
思い出して、無意識に頬を緩める。きっと今の私はだらしない顔してるんだろうな。

「顔溶けちょる」
「ねーねー先輩の好みのタイプってなんですかー?」
「何じゃいきなり」

妙に気分が上がったので女子トークもどきをしてみたくなった。相手男だけど。仁王先輩なんだかんだいって相手してくれるし意味深な顔してても嫌なことしてこないから何となく安心する。静かだし。

「先輩彼女居たことあります?」
「まあそれなりに」
「何人?何人?」
「それくらい、魔法で暴けるじゃろ」
「他人のプライベート覗く程意地悪くないですよ」
「へぇ」
「意外!みたいな顔やめてもらっていいっすかね」

やろうと思えば心の中だって見れるけど、そんなことしたら人としてどうかと思うわ。

「いい子いい子」
「たった二歳差なはずなのにこの扱い」
「皆可愛がっとるんよ」
「あしらわれた感がすごい」

どうにも捻くれた返事しかできない私に、仁王先輩は笑ってぐっしゃぐしゃに頭を撫でてきた。