魔女は弄ばれる

「さて、そろそろ帰るとするか」
「えー!もう帰るんですか!もっと思い出話聞きたいなー!!」
「………」

初め散々嫌がっていたくせに、理久は仁王の恋愛遍歴を教えてもらうや否や物凄い食い付きを見せた。あれはこれはと次々に質問がぶつけられ、半ば逃げるように帰宅の意向を示したのだ。

「人の恋愛話聞いて面白いんかのう」
「めっちゃ面白い」
「そういうお前はどうなんじゃ」
「あるわけないでしょ影も形もないですよ!」
「威張ることじゃない。どういうのが理想なんじゃ、俺が見繕ってきてやろう」
「結構です!うーん理想かーーー軽そうな人……?」
「………」
「いや違う!なんか語弊があった!やめてそんな目を細めないで先輩!」

軽そうな人、その一言に仁王先輩の顔が引き攣った。いやわかる、そうだなちょっと言葉を間違えたな。

「身軽そうな人というか、飄々としてて掴みどころのない人というか、人当たりはすごくいいんだけど何考えてるかわからなさそうというか」
「それはそれでどうなんじゃ……猫宮あぶな…」
「何か口に出してみたらすごいしっくりきた……そういう人近くに居ます?」
「居らん」
「えー!見繕ってくれるって言ったのに!あとできれば身長高めで黒髪がいいです、短髪の」
「じゃから居らんて。しれっと条件追加すんな」

仁王先輩にべちんと額を叩かれ、赤くなったであろう額を押さえながら痛みに呻き声を上げた。今のは当たり具合が悪かった。響いた。

「うちの赤也なんてどうよ」
「えー……身内で探すの嫌なんですけど…」
「じゃあテニス部は全員眼中に無しか?」
「逆に眼中に入れられても困りません?あ、先輩としてはすんごく好きですよ皆さん。超好き!」

そんな…手近で見繕うのってちょっと……先輩達にも選ぶ権利あるし…
私の言葉に、仁王先輩は目をぱちぱちと瞬かせた。普段切れ長な目を大きく見開いて、こちらを凝視している。なんだ。

「お、仁王先輩の目綺麗ですね」
「………何というか…ここまで裏表のない好意をぶつけられたのは初めてぜよ」
「え……?ちょっと何言ってるかわかんないんですけど…」
「顔がむかつく」
「すごい理不尽!?」

苛立った顔の仁王先輩に、ギリリと急に片頬を抓まれた。力加減!力加減を!!
少ししてやっと解放されたが、抓まれた頬はヒリヒリと熱を持っている。きっと真っ赤だろうな。何してくれてんだ女の子に。
仁王先輩が帰ると言うので玄関までお見送りする。

「先輩先輩、ちょっと髪ゴム貸してください」
「?」

手を出せば、仁王先輩は不思議そうに髪からゴムを外して私の手のひらに乗せた。
手のひらに魔力を集中させると小さな魔法陣が浮かぶ。くるくると髪ゴムの下で数回回って、吸い込まれるように消えた。

「はいどうぞ」
「何したんじゃ」
「おまじないですよ。先輩男だけど、夜道は危ないですからね」
「ほう、心配してくれたんか」
「掘られたら大変」
「言ってくれるのう今すぐお前さんを犯してやろうか」
「すいませんでした」

表情に影がさした仁王先輩に手首をぎゅっと掴まれる。ひぃ怒ってる。いや無いこともないじゃんそういう変態居るじゃん絶対。守りたい、その尻。

「まあそういうの含め諸々から守ってくれるようにしたんで!家までの効果なんで!気を付けて帰ってくださいね!!」
「……はー………釈然とせんが、ありがとうと言っておくか…」
「へへー!どういたしまして!」

大事な先輩には変わりない。男とはいえまだ高校生だし、大人の男ですら夜道では何があるか分からないんだから。危ない目には遭ってほしくない。心配なんですよ。
にーっと笑えば、優しく頭を撫でられる。そのまま仁王先輩の手は後頭部へ滑り落ち、ぐっと頭を引き寄せられた。

先程抓られた頬に柔らかな感触。
すぐ目の前には仁王先輩の首筋が見えた。

「人の心配ばっかで、自分を疎かにしちゃいかんぜよ」

低く小さい声が耳元で響く。離れていく彼の顔は、ここぞとばかりに悪い顔をしていた。

「………プレイボーイかよ…」

呆然とする私が呟いた言葉に、仁王先輩は噴き出した。