魔女は一人で遊びたい

海に入る直前、あることを思い出して踵を返す。そのまま仁王先輩の元へ走って行くと、何故か彼は両腕を広げた。

「えっ何すか」
「何じゃ、抱き着きに来たんかと思った」
「全然違う…ちょっと先輩屈んで、髪ゴム見せて」

仁王先輩は首を傾げて、私が届きやすいように前屈みになった。
髪を縛っている髪ゴムに少し触れると、仁王先輩から僅かに呻き声が漏れた。

「……暑い…」
「外気温調節したまま海入ったら多分寒いと思うんで、今日は我慢してください」

私が髪ゴムにかけている魔法を、一定時間弱めた。別な魔法をかけて、本来の効果を遮っているというか。

「はいもういいですよ」

終わったと言ったのに、仁王先輩はまだ少し前屈みで私の顔を覗き込んでいる。何近いんですけど

「………私周囲の視線に刺殺されそうなんですけど」
「知っとる」
「知っててこんな近づいてんですか?質悪い〜」
「というかまあ、お前さんがどんな反応するか見てみたかっただけじゃ」
「? へぇ?」
「マヌケ顔」
「余計なお世話です〜!うおおおおおお仁王先輩なんか知るか!!」

さっきから意味わかんないこと言ってる仁王先輩なんぞ!知るか!再び海へ駆けだそうとした私の腕を仁王先輩が掴み、何故か小脇に抱えられた。

「?????仁王せんぱ」
「しっかり楽しみんしゃい」
「……待って、待って待って先輩なにすん…」

小脇に抱えられたまま仁王先輩は海へと進む。そして

「ぎゃああああああああああああああ!!!!」

あろうことか、浜辺から海へと思い切り投げられた。
ザブンと大きな音を立て、私は強制的に海へ潜る羽目となった。急いで水面へ上がり顔を出して思い切り息を吸う。

「先輩の馬鹿ぁああああああああああああ!!!」

そう叫べば、遠くを見るように手を目の上に当てこちらを眺めていた仁王先輩が見えた。

「よく飛んだのう」
「まずは人の心配してよ!!!!!」

投げた自分すごいみたいな顔して腹立つわー。
私が生きていること(?)が分かり、仁王先輩は満足気にこちらへ寄ってくる。ザブザブと音を立ててこちらへ来ると、大丈夫かと今更な言葉を放った。

「ビキニからぽろりしたらどうすんですか」
「ほう、試してみるか」
「やだこの人ー」

すごい危ない人だよこの人ーうわあああん奈々先輩ぃいいいいい!

「二人だけで遊んでんじゃねーよぃ」

こちらに近づいてくる音がすると思ったら丸井先輩だった。ていうか柳生先輩と柳先輩は?と思ったら浜辺からこちらを見守っている。お父さんか。

「猫宮超飛んでたな!俺も投げてやろうか?」
「結構です!」

手をわきわきさせ、面白そうだと言わんばかりに人を投げようとする切原先輩をキッと睨んだ。やめろ!モーゼのごとく海割るぞ!

「ていうか先輩達こっち来ないでくださいよー女子達の目が怖いよー」
「だから来てんだよ。声かけられねーようにな。お前は俺らの虫除けなワケ」
「そんなことに可愛い後輩使って!酷い!あっち行って!」

丸井先輩に向かってキーッと威嚇する。けれども彼は少しも堪えていないようで面白そうにケラケラと笑っていた。

「馬鹿。一人にしてお前が変なのに絡まれたら大変だろぃ」
「そんな物好き居ませんよ」
「万が一ってこと。だからあんまり離れんなよぃ」
「へーい」

むすっとむくれ体から力を抜くと、ぷかぷかと水面に体が浮かぶ。そのまま漂うように、水の動きに身を委ねればゆらゆらと波に揺られた。
むくれた私に、切原先輩は軽く笑ってばしゃりと水をかけてきた。許さん。