「理久、探されてるわよ」
セイレーンとの話に花を咲かせていたところ、ふと彼女が大きな岩場の向こうへ視線を向けておかしそうに笑う。
「耳いいね」
「浜辺まではね、人魚は何でもわかってしまうのよ」
「あ〜〜〜戻るか〜〜〜面倒だなぁ」
「心配される程可愛がられているってことなのよ。早く行ってあげなさい」
「ねえまた会える?」
「いつでも会えるわ」
名残惜しかったが、私はセイレーンにお別れをして人で賑わう浜辺へと戻った。
泣きそう。ホームシックならぬセイレーンシック。つらい。
振り返ればもうそこに彼女は居なくて、それがますます寂しかった。
悲しみに打ちひしがれながら先輩達の元へ向かおうとしていたところ、何か知らない男の人達に声をかけられた。
「一人?高校生かな?」
「一人なら俺達と遊ばない?」
何が悲しくてこんなリア充だらけの海水浴場に一人で来なきゃならないんだ馬鹿野郎。
「いや、人と来てるんで〜」
目を合わせないよう男達の横を通り過ぎようとするも、痛いくらいに腕を掴まれた。物凄い力の入りようだ。思わず彼らの顔を見てしまい自分の中に恐怖心が沸いてしまった。
「じゃあその子達も誘ってさ、一緒に遊ぼ?この後バーベキューするし人数居た方が楽しいし」
「いやホント結構です離してもらっていいですか、手」
「ちょっとだけじゃん〜ねえ?」
笑顔が怖い。もうただのナンパじゃないじゃんこれヤバイやつじゃん〜
魔女のくせに、初めての体験で頭がパニックになっていた。パニックになりすぎて私の腕を掴むその腕を切り落とすかどうかしか思いつかなかった。切り落としたらやばい、それはよく分かったんだけどそれ以外に方法が思いつかなかった。
グイグイと引っ張る男に抵抗しながらも、男に力で敵うはずもなく。
もうこいつの手切り落とすか!?と目を見開いたその時
「その手離せ」
背中に温もり。掴まれている私の腕を背後から伸びてきた手が優しく掴む。
この声は知っている。
「聞こえなかったのかよ、手ぇ離せっつってんの」
「誰だお前」
「こいつの先輩だけど」
「人と来てるって、男かよ」
「だったら何?早く手ぇ離さねーと潰すぞテメェら」
「んだと………、…ッ!?」
交戦か?と思いきや男達は途端に顔色を悪くして逃げるように去って行った。なんだったんだ。
私は首を傾げながらも振り返れば、呆れたようにほっと息を吐く切原先輩に抱き着いた。
「うおおおおおびっくりしたああああああああ!!」
「だから一人で歩くなっつっただろー!いつの間にかどっか行ってるしお前!!」
「切原先輩来なかったらあいつの腕切り落としてるとこだった……」
「間に合ってよかったな俺…!!」
抱き着く私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。切原先輩めっちゃ優しいでもさっきの声は怖かったわ。
「おーまーえーなー」
切原先輩の背後から、怒りのこもった声がする。やべえ丸井先輩だ。背伸びをして切原先輩の肩越しに後ろを見れば我らが立海勢揃いだった。ああ、これ見てあいつら逃げだしたのか。ざまぁ
「だあああからだめだっつったろぃ!!何勝手に居なくなってんだよお前は!!」
「大変申し訳なく…」
「あのまま連れてかれたらどうすんだ!」
「すいませんでした…」
「つーかいい加減赤也から離れろ!」
「丸井先輩こえーから無理!」
私は切原先輩を盾にしながら抱き着く手を緩めない。盾にされている切原先輩は困ったように笑ってよしよしと背中を撫でてくれた。
「でも無事でよかったよ、見つけた時は焦った」
眉尻を下げた幸村先輩に、「次は居なくなっちゃだめだよ」と釘を刺される。おおお…申し訳ない…すごい罪悪感……
「はい捕まえた」
「ッ!?」
幸村先輩に対してしょんぼりしていると、背後から体を抱えられる。いきなりのことで思わず切原先輩から手を離してしまった。
仁王先輩にやられたように、丸井先輩に小脇に抱えられるとそのまま海へ連れて行かれる。
「……待って…先輩待ってちょっと待って嘘だろいやいやいやちょっ」
「口閉じろよー舌噛まねえようにな」
「待っ……心の準備が……ッうぎゃああああああああああああ!!!!!」
勢いよく、私は海に投げ出された。