日吉に抱えられ連れてこられた保健室には既にめぐるが居り、先生に事情を話してくれていた。
保健室に入ってきた日吉と理久を見て、小さく「やだ青春」と呟いためぐるの声は先生にのみ届いていた。
そのままベッドに寝かせられ、そっと布団を掛けられる。家のベッドよりも硬いが今はその硬さすら愛おしい。安堵感が物凄かった。
渡された体温計で熱を測ってみればなんということでしょう、39.4との表示が。
「理久…」
「猫宮…」
咎めるように理久を呼ぶめぐると日吉に理久は必死に反論をする。
「違う……今朝はここまでじゃなかったんだって…」
「とりあえず、親御さんに連絡して迎えきてもらうようにするから」
「あー…多分今日は来れないと思います……今二人とも出張なんですよ…」
「はー!?」
「先生叫ばないで頭に響く…」
二人が帰ってくるのは二日後だ。きっとこのまま家に帰って学校を休むようなことになれば誰もいない家で飢饉に見舞われるだろう。
飼っている猫が理久のご飯を用意してくれるそんな奇跡が起きない限り。100%起きないだろうが。
「全く……じゃあ先生が送ってくから。立花、猫宮の鞄持ってきてくれる?」
「はーい!」
「先生ちょっと担任の先生に話してくる」
ぱたぱたと先生もめぐるも部屋を出て行ってしまった。しん、と静まり返った空間が妙に落ち着き、理久はふっと息を吐く。
「だっる」
「それだけ熱があればな」
「ぅわッ!!」
まさかの日吉が残っていた。何故めぐると教室へ戻らなかったのだろうびびらせないでほしい。
「何だ?」
「まさか居るとは思わなくて……その…連れてきてくれてありがとう」
運んでくれてありがとうとは言わない。思い出すだけで恥ずかしくなる。
「大したことじゃない」
日吉は理久が寝ているベッドの縁へ座ると、細長い指でそっと理久の前髪を払った。
彼の行動の意味がよく分からず理久は目を見開いて日吉を凝視する。
「授業中、ふらふらしてただろう」
「よく分かったね…」
「見えたからな」
見られていたことの恥ずかしさから理久はより一層顔を赤くして片手で目元を覆った。
フッと日吉が笑う気配がして、視界を覆う手をずらせば僅かに微笑んだ日吉と目が合う。どうしてだろう、どうしてこうも、心臓が跳ねるのか。
「顔赤いぞ」
「39度もあればそりゃね」
「熱だけのせいか?」
「……そうだよ」
何が言いたいのだと理久は目を細める。それを見て日吉は意地の悪い笑みを浮かべて、ぽんぽんと理久の頭を撫でた。
もしかして今居る日吉は熱のせいで作り出した幻なのではないかと理久は思う。
出会った当初はこんなことをするような人ではないと思っていたのに。
どうにか、笑えるようなことを言い返してやりたい、そうは思うのに上手く言葉が出なかった。
そうしている内にぱたぱたと足音が聞こえ、日吉が立ち上がる。
入ってきたのはめぐるで、理久の鞄をベッドの横に置いてくれた。
「じゃあ理久気を付けて帰ってね、何かあったらLINEして!すぐ行くから!」
「ありがとう〜最終手段は猫缶食べるから大丈夫」
「せめて人間としての威厳は守って…!!」
そう言われたら、猫缶美味しいんだよなんて言えなかった。
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「日吉くんさ〜」
「何だ」
「理久にやけに優しくない?」
「普通だろ」
「いーや絶対普通じゃないわ……」
めぐるの鋭い眼差しにぴくりともしない日吉は、逆に薄っすらと笑みを浮かべる。
「跡部先輩が興味持ってたよ、理久に」
「……」
ほんの一瞬、日吉が顔を顰めるのをめぐるは見逃さなかった。
「なあんつって!!うっそぴょ〜〜〜〜〜ん!!」
よほど日吉が表情を崩したのが面白かったのだろう、めぐるは腹を抱えて笑ったが、すぐ日吉に仕返しを受けることになるのだった。