これ以上ボロを出す前にと、私達は氷帝の皆さんにお別れを言って海を後にした。
着替えを終えてさあ帰ろうかとなった時、ふと、あの綺麗な歌声が聴こえてくる。思わず海を振り返れば、水面から顔を出してこちらへ手を振るセイレーンがいた。
私は駆けだしそうになる衝動を抑えて、見えるように大きく手を振る。
「猫宮さん、誰に手を振っているの?」
皆不思議そうに私を見ていて、幸村先輩は誰か知り合いでも居たのかと問いかけてくる。
私は幸村先輩の手を控え目に握って、ほらと海の方を指さす。
「見えますか?」
「…あの顔だけ出してる子?」
「人魚ですよ、私初めて会ったんですけどね」
「……ええええ」
驚愕する幸村先輩の横顔に笑って、再びセイレーンに視線を戻す。
小さく、人魚の唄を奏でればセイレーンは嬉しそうに一度海へ潜ると綺麗な尾ひれを見せてくれた。太陽の光が当たってより美しさを増す。
唄に乗せて、またねと彼女に言った。
彼女は満足気に笑って、再び海に潜ったまま姿を現さなかった。
「綺麗だったね」
「ホントですよね〜」
幸村先輩は未だ海を眺め、もう姿の見えない人魚をそれでも捜していた。また必ず会える、その時は幸村先輩を紹介しようと心に決めた。
****
「あ」
街に戻ってくると一つ思い出したことがある。思わず声を出してしまって、先輩達の視線を浴びた。
「なんだよぃ」
「丸井先輩、かき氷」
「よーっしさっさと帰んぞ」
「先輩いいいいいいいいかき氷いいいいいいいいい」
「ない」
「無くはないでしょ!?食べて帰ろうよおおおおおおお」
「ないない」
「丸井先輩の嘘つき!」
キーッと歯を噛み締めていると、背中に重みを感じた。何だよと横を見れば気だるげな仁王先輩の顔が見えた。
「暑い」
「……あっ、忘れてた」
髪ゴムの魔法解除すんの忘れてた。ごめんなさいと言ってかけていた妨害魔法を解除すれば、彼はほっと息を吐いた。
魔法は解いたのに、仁王先輩が離れてくれない。歩きづらくて死ぬほど邪魔だ。
「仁王先輩」
「なんじゃ」
「だいぶ邪魔だなって」
「抱っこしちゃろか」
「いやホントそういうのいいんで…」
「つれないのう」
つれないとか言いながらニヤニヤしないでほしい。
私達はそれぞれ帰路につき、またねと手を振る。柳生先輩に送りましょうかと言われたが、きっと帰りに何かがあったとして、一番生き残る確率が高いのは私だ。私は無敵なので大丈夫ですと断ればわざと残念そうに笑って分かりましたと言った。ちくしょう送ってもらえばよかったかな。
一人帰路について、今日のことを思い返す。
今まで散々周りに魔女アピールをしてきた私だったけど、跡部さん達を見て、今までの私は大変浅はかだったなと感じた。
最初にバレたのがうちの先輩達だったからよかったのだ。他の人なら、こうして受け入れてもらえなかったかもしれない。
そう思うと、少しだけ落ち込んだ。落ち込む半面、先輩達本当に優しいなあとも思った。
けどかき氷を無かったことにした丸井先輩は許さない。
私は家に帰る直前、スーパーへ寄るとイチゴシロップと練乳を買って、家でセルフかき氷をすることに決めた。
「見ちゃった〜」
「ぎゃあ!」
すぐ後ろから声がして肩を大きく揺らす。
ギギギ、と機械のような音をさせながら振り返れば満面の笑みを浮かべた丸井先輩が居た。
「家で?かき氷ですか?」
「顔むかつく!ていうか何で居るの!?」
「ずっと後ろに居たんだけど」
「ストーカーじゃん!」
「ちげーよ!!」
ベチンッと額を叩かれた。そんな……割と本気で叩かなくてもいいじゃないの…でもストーカーじゃん……
「で?これからかき氷?」
「……」
「しょーがねーな俺も食ってやるよー」
楽し気に肩を抱かれ、私は大きな大きな溜息を吐いた。幸せ逃げるぞと言われたが、99%丸井先輩のせいだから気付いてほしい。
私はヤケになって、丸井先輩を招き入れてスイーツパーティーをした。かき氷からアイスクリームから果物たっぷりパンケーキ、フルーツタルト、丸井先輩が食べたいと言うのでアップルパイ……魔法をフル活用し次々とスイーツが出来上がっていく様は私から見てもファンタジーのような世界だった。
そしてそれら殆どが丸井先輩の胃に収まった。正直引いた。