先輩Aの独白

高校二年生の夏に突入したあたりに、一人の女の子と知り合いになった。
きっかけは仁王さんが何か女子追っかけてて、それを追って行ったらなんか魔女とか言ってて。
は?ってなるだろ普通。
けど実際本当で、あいつ…猫宮はたくさんの魔法を見せてくれた。
そんな猫宮は友達がいないらしく、いつ見かけても一人だった。最初こそ寂しそうに思えたが、徐々にそんな雰囲気も無くなっていった。むしろ一人のほうが楽だと気付いたらしい。それはそれで可哀想だが。
可哀想だからといって、俺達が今まで以上に構うことはない。
そんなことしてしまえばますます友達を作る機会が失われていくだろうから。
けど見かけた時は一応声をかけることにしてんだけど。

「よう猫宮」
「おお!切原先輩だ!体育だったんですか」
「そー。暑いからちょっとだけ冷やしてくんね?」
「任せて!はいお手!」
「犬みたいに言うな」

実際犬にするように、手を出してきた猫宮に苦笑いをする。ぶっちゃけお前のほうが犬みたいなのに……
釈然とはしなかったが大人しく彼女の手に自分の手を重ねた。すると僅かに外気温が下がり、温風でしかなかった風は肌に当たる度気持ちがいい。除湿もしてくれたようであの不快なべたつきも無くなった。

「あー……これ癖になるな」
「先輩の髪だけに?」
「何か言った????」
「ああああ〜〜〜〜先輩握力考えて握力いたたたたたたた」

訳の分からないことを言うものだから、猫宮の手をここぞとばかりに握った。猫宮の手は俺よりも二回り近く小さくて、幼児の手かと思う程だ。女の子特有の柔らかさと肌触りが少し心地よかった。

****

今日も会えればいいなと、炎天下でサッカーをしながらぼんやりと考える。会えればすぐ快適になるし、何より気分転換になる。猫宮と話していると肩の力が抜けて妙にリラックスができているようだった。何か魔法でも使っているのかと聞きたくなるほどに。

授業が終わって教室へ戻るために校庭を歩いていると、体育の延長でまだ少し遊んでいる奴らが数人いた。それを横目にふと校舎を見れば、渡り廊下を歩いている猫宮が居た。
声をかけようと思った直後、遊んでいた奴らから大きな声がしたと思えばサッカーボールが物凄い勢いで猫宮にぶつかった。
暴投だ。
渡り廊下に倒れ込んだであろう猫宮は、廊下の柵によって見えない。俺は走ってその柵を飛び越えるとその場に倒れ込む猫宮に近づいた。
猫宮は目を見開いて顔を青くしながら横たわっている。

「猫宮大丈夫か!?」
「おおおお……びっくりしたびっくりした……びっくりしすぎて放心状態だった…」
「当たったろ!?」
「いや大丈夫です常に防御魔法が動いてるんで、背後から刺されても平気です……さっきのボールも当たらず跳ね返りましたよ…」
「はー…………びびった……」
「わわわわ私もびびった……猟銃で撃ち落とされた鳥の気分……」
「例えがこえーよ……ほら起きろー」

安堵感に息を吐いて、俺は猫宮を抱き起した。

「ちょっと待ってろ、ボール蹴った奴シメてくっから」
「活きがいいうちにね!じゃない!切原先輩いいから!私大丈夫だから!大事にしないで!」
「一歩間違えれば大惨事だったろうが」
「んもう男前!でも怪我なかったから!いいから!」

すると先程ボールを蹴りやがった奴が近づいてきて、申し訳なさそうに頭を下げた。人の後輩になんてことすんだと一言言ってやりたかったが、猫宮が大丈夫ですと笑うものだから何も言えなかった。というかその笑顔腹立つ、よくわかんねーけど。

「颯爽と現れた切原先輩超かっこよかった」
「俺はいつでもかっこいいもん」
「そうでしたねぇ」

少し拗ねている俺の腕に、猫宮は笑ってそっと触れた。猫宮に熱が奪われるかのように熱かった空気は少しずつ冷えていった。

「俺頼んでねーのに」
「お礼」
「…お前さ、利用されてるかもとか思わねえの?」
「いやいやいやいや、利用される為に先輩達には打ち明けてるんですから。じゃなかったら今頃記憶消してる」

利用されているかもしれないと分かった上で俺の頼みを聞いてくれていたのか。お人好しというか、危機感が足りないというか。

「…俺が言うのもなんだけどよ、しっかりしろよ」
「なんだろ……すごい胸に刺さるな…」

猫宮は若干落ち込んだ様子で、自分の胸に手を当てていた。それが少しおかしくて、わしわしと頭を撫でてやれば腑抜けた声がこぼれた。
魔女云々抜きにしても、男女という性別を抜きにしても、ここまで話しやすい奴はそうそういないだろうなと漠然と考える。
そんな存在は漫画の中だけの話じゃないかと思っていたが、意外にも現実に居たらしい。
だからこそ、少しだけ過保護になってしまう。俺も、先輩達も。

「焼肉食べたい…」
「やめろよ今言うなよ……腹減った」

だが少しだけ、思ったことをすぐ口にするのはやめてもらいたい。
一瞬で頭ん中焼肉になったわどうしてくれんだよ。