魔女の名前

あの後それぞれ注文したメニューが届き、それをつつきながら談笑していた。
二人とも他校に彼氏が居るらしい。お、大人〜〜〜!

「理久にもお土産買ってくるからね」
「やったー」

早速名前呼びになり、少し恥ずかしさもあるが彼女達の友達カテゴリーに入れたということで嬉しさの方が勝った。
でもまだ距離の測り方に注意しないとな。友達になれたからといって馴れ馴れしくしていいわけではないからな。慎重に慎重に……

「あれ、猫宮じゃん」

慎重に慎重に……今何か丸井先輩の声聞こえたけど気のせい慎重に慎重に…

「先輩無視するとはいい度胸だな?猫宮」
「いだだだだ首もげる」

頭を鷲掴みされ無理矢理顔を向けさせられたおかげで首がミシミシと悲鳴を上げた。なんてことしやがる。

「あ、この人知ってる、テニス部の人だ」

椿ちゃんが思い出したように手を打った。それに遅れて由奈ちゃんもああと声を上げる。

「ドーモ、猫宮の頼れる先輩でーす。シクヨロ」

ドンと人を奥の席に追いやり無理矢理隣に座ってきた丸井先輩にほんの少し殺意が沸いたけれども、私は大人なので、ぐっと我慢するのです。

「理久はさ、そもそも何でテニス部と仲良いの?どういう繋がり?」

首を傾げて私達を見ながら椿ちゃんが問いかけてくる。どういう繋がり…と言われてもなあ……

「………理久…?」
「えっ」

突然、丸井先輩が私の名前を呼ぶ。思わず彼のほうを向くと若干拗ねた顔をしていた。いやホント何。
何故か黙ってしまった丸井先輩を横目に、適当に嘘を交えながら経緯を話すと二人とも納得してくれたようだった。

「結構噂だよ〜理久が誰狙ってんのかって」
「私ちゃんと理想あるもん!」
「「「例えば?」」」
「えっ丸井先輩まで聞くの…いいけど……何かこう身軽そうで、何考えてるか分かんなくて、飄々としてて…表の顔はいつも笑ってるけど裏じゃ何やってるか分かんない人!長身で黒髪短髪なら尚良し!」

鼻息を荒くしてそう言ってのければ、三人とも信じられないとでも言いたげな顔をしている。何故。

「理久漫画の読みすぎ」
「そんなん絶対居ないから!あははははは!!」
「理想斜め上過ぎだろお前…」

由奈ちゃんには真顔で一刀両断され、椿ちゃんには爆笑され、丸井先輩には呆れられた。
何よ何よ何よ!探せば居るでしょ一人くらい!世界は広いんだから!居るでしょ!違う泣いてないわ!

「つーか丸井先輩は何しにここへ!?」
「外からお前が見えたから」
「偶然を装って近づいてきたの!?やだ先輩何する気!?」
「あ?」
「いや痛い痛い〜すごい痛いって〜」

今度は顔面を鷲掴みだ。めっちゃ痛いじゃんこれ〜

「なんか、兄妹みたいだね」

由奈ちゃんが静かに笑う。兄妹みたいだと言われて丸井先輩は少しきょとんとした後、確かになと呟いた。

「手かかりすぎる妹だけどな。うちの弟達より厄介」
「それそっくりそのまま返していいですか?うちの兄ちゃんより口うるさい!」
「んだと!」
「またほら力強くなる〜〜〜いででででで」

****

「じゃあまた明日ね、理久」
「明日から一緒に昼ご飯食べよーね!」
「やったー!また明日ね!」

願ってもみなかったお誘いに心を弾ませる。じゃーなーと大きく手を振る椿ちゃんに手を振り返して私も帰ろうとした。

「まーた先輩無視かこの野郎」
「無視じゃないです、忘れてた」
「へぇ」
「ごめんなさい!」

バキバキと指を鳴らしてまたどこかを鷲掴もうとする丸井先輩に即座に謝った。あれホント痛いんだよ力加減あんましてないだろ。

「あの二人といつ仲良くなったんだ」
「今日!」
「今日の今日で名前呼びかよぃ」
「ちょーっと照れるんですけどね!!ふふ!!」

思い出すと顔が熱くなる。へっへへへ……女王のように美しい奈々先輩に、クールビューティーな由奈ちゃんに、賑やかで喋りやすい椿ちゃん。
私の友人関係恵まれすぎか……

「理久」
「ハイッ!……え?」

再び名前を呼ばれた。思わずいい返事をしてしまったじゃないか。

「…俺のほうが先に知り合っただろぃ」

そう言って口を尖らせる先輩の意図が分からず、どう返そうか迷っていると、急に腕を引っ張られた。
勢い余って丸井先輩に体当たりをしてしまう。吃驚して見上げると、思った以上に丸井先輩の顔が近かった。

「理久の浮気者!」
「ハァ゛!?」

バーカ!!と続けて罵倒され、本当に意味が分からない。何なの、丸井先輩情緒不安定なの?大丈夫なの?明日幸村先輩に相談しなきゃ……先輩の一大事だ…

「ボケー!!」
「よしその喧嘩買った!!!!」

相談とかもうどうでもいいわ今すぐ決闘だ!!!!!!