三年生の丸井先輩達とは途中で分かれ、切原先輩と二人で廊下を歩く。
時折周囲の視線が突き刺さるが、気にしたら負けだ。
「先輩の好きなタイプって何ですか?」
「何だよ急に」
「いや流れ的に気になるじゃないですか」
「んー……明るい子?」
「ああーそれっぽい。さっきの人明るそうでしたけど…」
「まあそうなんだけどよ。……ちょっと、違うっつーか」
「ふーん……難しいですねぇ」
違う、ということは少なからず切原先輩の中には"明るい子"以外に条件があるのだろう。
そっちの条件がクリアしてないから違うってことなんじゃないかなと思う。
「でも先輩達ホントモテますねぇ…人生楽しそう」
「まあモテたところでテニス以外興味ねーけどな」
「でも彼女は欲しいと」
「機会があれば、の話」
さっきがその機会じゃないのか、と思ったけど面倒くさかったので言わないでおいた。すると急に切原先輩が私の顔をじっと見つめる。何だろ、米粒ついてるかな。
「あー………あれだな、お前が居るからかもしんねえわ」
「?」
「彼女作るより、お前と一緒に居たほうが楽しいからかなぁ」
からかっているわけでもなく、どこか納得いったような顔でそう告げた切原先輩に、私は目を瞬かせた。
「えーそんな褒められてもアメちゃんしか出ないですよ」
「出んのかよ」
「これ眠気が一切無くなるアメです」
「マジ!?次英語なんだよ助かる!」
さんきゅーと満面の笑顔で言われ、今日も一日一善したなと心がほっこりした。
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ほっこりしたのも束の間、最近ではめっきりなくなっていた呼び出しがカムバックした。呼び出した人はあの切原先輩に告白をしていた子だ。数人の女子を連れて私の前に立ちはだかっている。
「切原くんの周りうろちょろすんのやめてくんない?彼女でもないくせに」
先輩後輩なのだからそりゃお喋りするし。普通に友達なのだからたまーに近くに居るし。そりゃ彼女が居れば私だって遠慮するさ。でも別に今先輩に彼女居ないし、普通にお喋りしてるだけだし……
ていうかすごくないこの呼び出し率!?多分私この学校で一番呼び出しされてるよ!?お約束すぎない!?
「あたしが先に好きになったんだから!分かったら切原くんに近づくのやめて!」
これ何て言えばいいのだろう。いやまあイエスorはいなんだろうけど……まあいいか
「わかり…」
分かりました、と言おうとした私の口が、背後から伸びてきた手によって覆われる。海でもあったなこんなこと。あの時は腕を掴まれたけど。
私が何か言わないようになのか、ぐっと手を押し付けられる。というか誰なんだ……
「何、言う通りにしようとしてんだよお前」
少し低い、切原先輩の声がすぐ耳元で響く。いつもの明るい声は影を潜め、地を這うようなその声に背中がぞくりとした。
「…クラスでは割と気さくに話せる奴だなって思ってたけど、こういうことすんのな」
「ちがっ……待って違う!誤解だよ!」
「何が、誤解なワケ」
「っ!」
待って、私も怖い。超怖い。少しでも動いたら殺されそう。うわああああああ自分の背後のオーラ怖い!!!
目の前にいた彼女達は顔を真っ青にして、何も言えずに走って行った。待って、私を置いて行かないでほしい。
「……」
「お前は、」
「……」
「またそうやって簡単に俺達から離れようとする」
押し付けられていた手の力が緩み、切原先輩の細長い指が私の唇をなぞる。その行為に心臓がバクバクとうるさくなった。待って待ってー先輩何してんすか
なぞって、押して、爪を立てる。
「ッ、痛いですよ先輩」
「この口縫ってやりたくなるなァ」
メンヘラだ!!メンヘラがここに居る!!助けてアン〇ンマン!!!
「はあああああ……お前さ、俺達のこと嫌いなの?」
「いやまさか、嫌いだったらお喋りしませんよ」
「じゃあ何で簡単に離れようとできるわけ?」
「丸く収まるから…?」
「馬鹿野郎」
「うわっ」
唇から手が離れ、首に腕を回される。ぐっと後ろに引き寄せられると、私の肩に切原先輩の顔が埋められた。これ端から見たらめっちゃいちゃついてない?大丈夫?
「少しは俺達の気持ちも考えろ」
「……、申し訳ない」
「暫く彼女とかいらねーわ」
「ええー…」
「それよりもお前と居てーの」
「すごい嬉しいけど泣かないで先輩…」
「泣いてねーわマジで口縫うぞお前」
「すんませんした」