そのまま説教、となるはずだったが、とりあえず部活を終えてからということで意識のない幸村先輩と部室で大人しく待つことになった。
ベンチに寝そべり昏々と眠る幸村先輩の額に手を当て、体内に巡る薬の成分を取り除いた。これで起きてももう大丈夫だろう。
加えて先程起こった出来事の記憶は彼の中から消した。あれは覚えていないほうが絶対いい。というかそうしてもらいたい、私が。
思い出せば思い出す程顔が熱くなる。だめだ、幸村先輩が媚薬とか使っちゃだめだ、国が傾く。
そして、起こってしまったことに対して激しく落ち込んだ。
床に座り込み膝を抱えて長ったらしい溜息を吐く。あーあ、何やってんだろ自分。迷惑かけんなってな…
あー怖い!怒られんのめっちゃ怖い!丸井先輩めちゃくちゃ怒ってたよー怖いよー
やだなあ怒鳴られんのやだなあ……ほんと………
****
「理久起きろィ!!!」
「ハッ!!!!!」
何!?寝ちゃってた!?マジか!!!
体育座りをしたまま眠り込んでしまっていたようだ。なんということだ。
丸井先輩の声に驚いて勢いよく顔を上げれば部活終わりの先輩達が勢揃い。お疲れ様ですすいません。
「理久〜!あれやってくれよ、あれ!ひやーっとするやつ!」
「はーい」
人差し指で床を二度叩く。
すると部屋はクーラーがついたような爽快感に包まれた。
「あーごくらく」
涼しさに、切原先輩が嬉しそうな声を上げた。汗が冷えて風邪を引くのだけは注意してほしいところである。
「んで、説明してもらおうか」
腕を組み仁王立ちをしている丸井先輩と目が合う。おっかねー……忘れちゃいないのか…
「先輩…着替えてからでも……ねえ?」
「あ?」
「すいませんでした話します」
魔法薬のこと、分量間違えたこと、どうしようか考えるためにとりあえずポケットに入れていたこと、それをすっかり忘れていたこと……洗いざらい全て話した。
私が話しながら着替えをしていた丸井先輩は深い深い溜息をつき、ロッカーに寄りかかって項垂れていた。
「俺食わなくてよかった……!!!」
「あと理久が早めに思い出してよかったっスね…あれ理久来てなかったらどうなってたか……」
「誠に面目ない……」
床にめり込む勢いで土下座をする。もう顔上げらんないよー申し訳がなさすぎるよーーーこれお母さんにバレたらどやされるわ…
ううう……私としたことが…迂闊だった……もう無理泣く…
「まあまあ、大きな問題にはならなかったんだ。そこまで深く落ち込むことはないさ」
猫を持ち上げるかのように、私を抱え上げたのは柳先輩だった。既に制服に着替えた彼は部活の疲れを見せない程凛としている。さすが優等生は違う。
「柳先輩も被害者なのに……申し訳ない…」
「なかなか不思議な体験だったな。もう二度目は経験したくないものだが」
「すいましぇえん」
ぐすぐすと鼻を鳴らす私を床に立たせ背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。神だ…ここに神がいる……私はまだ見捨てられてはいないようだ…
柳先輩が困っていることがあれば一番に駆け付けよう。私は心に誓った。
「幸村に口説かれとる丸井、乙女じゃったな」
「るせー!!!!やめろ思い出させんなボケェ!!!」
思い出してしまったのだろう、丸井先輩が途端に顔を赤くした。そんな彼を見て心の奥に何かが灯ったような気がした。この胸の高鳴り………これが萌えというやつなのだろうか……?
今までそういうの興味なかったけど、悪くないな…
丸井先輩をからかっていた仁王先輩がおもむろにこちらへ近づいてくる。なんだなんだと先輩を見つめていれば、うなじを覗き込まれた。
「!?」
「おーしっかり痕付いとるのう」
「え゛ッ!」
「良かったな、神の子のお手付きになれて」
「ファンに殺される……!!!!!!」
顔を青くする私を見て仁王先輩は大層面白そうに肩を震わせた。勘弁してほしい、私が幸村先輩の汚点になるなんてとんでもない。先輩には先輩に見合った人と関係を持ってほしいので私などなかったことにしてほしい。いや別に致したわけではないんだけど。何言ってんだ自分。
「俺が上書きしちゃろか」
「そんなことされたら何度殺されることか!!!!」
「殺されてもすぐ生き返りそうだよな、理久って」
「丸井先輩は私を何だと思ってるんだろう」
着替えを済ませた丸井先輩が呆れたようにガムを膨らませている。殺されてもすぐ生き返るって何だ、普通に死ぬわ。
「っつーわけで、今日迷惑かけた罰として今度の他校との練習試合に差し入れを持ってこい」
「えー!!!!!めんどくさーい!!!!!」
「オイ仁王!!!そいつ泣かせてやれ!!!!」
「よっしゃ」
「ぎゃああああああああ仁王先輩ペンチで何する気!!?!?!??」
秒で泣いた。