魔女と遅刻魔

キッチンからはクツクツと何かを煮る音、トントンと何かを切る音、ジュウジュウと何かを焼く音。
様々な音と共に食欲をそそられる匂いがリビングへ届く。それらをBGMに半分寝ぼけまなこで焼き立てのトーストにかじりついた。

今日はテニス部が他校との練習試合だそうで、この前の騒動の詫びとして彼らの昼食を作って行くことになった。果てしなくめんどくさかった。でも丸井先輩が許してくれなかった。
まあ魔法で全部作れるから手間という手間はないのだけど。クッソ眠い。
昼に間に合えばいいのかな?と思ったけど違うらしく、朝から一緒にバスで行くんだと。飽きたらソッコー帰ってやる。場所は東京の氷帝学園だそうだ。あの跡部さんとこじゃんブルジョアだブルジョア。

ランチボックスにたくさんのおかずとおにぎりとサンドイッチをちょちょいと詰め、無限ドリンクボトルと一緒に大きなバッグに入れる。それを亜空間へ投げ込みさあ向かおうかと思った矢先、スマホが鳴った。
これは電話だな〜とディスプレイを見てみれば切原先輩だった。

「もしもし〜おはようございます」
『やばい!!!!!!』
「えっ」
『今起きたんだけど理久ちょっとどうにかして!!!!!』
「多分もう出ないと間に合いませんね」
『なんも準備してねーの!!!!!頼む何とかしてくれ副部長に張り倒される!!!!』

わあ…それは怖い……切原先輩可哀想だな…
でも聞くところによると結構遅刻してるらしいじゃない?

『理久〜〜〜〜!!!!』

切原先輩泣きそうなんだけど。
私は先輩を見捨てる程鬼ではないので、一つ溜息をついて"時間停止"をした。

「怪我しないようにゆっくり準備してください」
『さんきゅ〜〜〜!!!あと迎えに来て!!!」
「分かりましたからはよ準備して!」

****

少しして魔女お得意の箒に跨り切原先輩の家へ向かう。いや空間転移魔法をね使えばいいんだけどね、やっぱり空飛ぶの楽しいじゃない。あと空間転移はちょっと、ちょっと疲れる。
私物が入ったリュックも亜空間へぶち込んでいるので手ぶらだ。ラクチン〜

未だ周囲の時は止まっていて、世界を独り占めしている気分だ。今日天気いいし最高。

「うわ!すげえ!箒!」
「準備オッケーですか?」
「オッケーオッケー!おはよ!」
「おはようございます」

大きめのテニスバッグを担いだ切原先輩の満面の笑顔に少し癒される。

「はい後ろ乗ってー」
「待って緊張してきた、夢の体験じゃん」
「しっかり掴まっててくださいよ」
「おう!」

背後から切原先輩の両腕が私の腹に回った。っしゃー行くぜー
ふわりと宙に浮き、グングン空へ昇っていく。一気に高くなった視界に切原先輩は楽しそうに声を上げていた。

「いやー助かった!マジ!理久様様だな!」
「いつまでも私が居ると思わないでくださいねー全く」
「え、お前居なくなんの?」
「高校終わったら北海道帰るつもりですよ」
「は?だめだろ」
「は?何故」
「だめったらだめ」

腹に回された腕の力が強まる。やめろ朝のトーストが出る。切原先輩は、後ろから抱き着いた状態で私の後頭部にぐりぐりと額をくっつけた。
猫じゃないんだから。

「やだよ俺もっとお前と居てーもん。先輩達だって絶対そう思うぜ」
「そんなこと言われても…まあまだちゃんと決まってるわけじゃないんですけどね」
「じゃあ行くな、神奈川永住決定」
「うーーーーん考えときます」
「何が何でも阻止してやるからな!」
「えぇー……」

ただの人間が魔女を阻止できると思ったら大間違いですよ先輩……